Q.ハロー私。今の状況を説明しなさい。
A.グッドイブニング私。今現在、体育ホールの倉庫に呼び出されて部活のセンパイに押し倒されています。
「さあほら!これが欲しかったんだろう!?」
言うが早いか、男がカチャカチャと音を立ててまろびだそうとしたソレを、私は視界に認めることもなく、爪先でぺちゃんこにしてやったのだった。
「あひぃん!?」
情けない絶叫をバックに薄暗い倉庫の天井を仰ぎ、私は思考する。
今のこの世界は間違っている。
世に曰く、昔々その昔…"図鑑世界"と呼ばれる異世界で魔王が代替わりしたそのときに、あまねく全ての異形(モンスター)は淫靡なる女の仮生、魔物娘に成り果てたと聞く。
その全てが男の精なくして我在らず、これと決めた男は基本的に裏切らず浮気も寝取られもノーセンキュー。おいおいマジかよ、しかも逆に男が幾人も女を娶るハーレム展開は場合によってはアリっちゃアリだと言うのだから、もう片腹痛いにも程がある。
あらゆるニーズにお応えするが如く、多種多様な異形の美女が”図鑑世界”と呼ばれる異世界から来訪する時代。貧乏不細工何のその、人間女性に見向きもされないあなた様のため、夜毎おまたをしとどに濡らしておりまする、だなんてね。
お前それどんな都合のいい…妄想も大概にしないと現実に置いてきぼりを食らって将来泣きを見るのはお前だぞお前。
と、ジパングは有名どころの超高いマウンテン(多分向こうの世界にもこちらでいう富士山的な山があるんだと思う)の山頂から魔王城まで届かんばかりに声を大にして言ってやりたいのだ私は。そのためだけにあっちに交換留学に行ってもいい。
だ と い う の に だ。
何の悪夢か幻術か、その野郎様共に大変ご都合の良くていらっしゃる妄想は、紛れもなく私の現実なのだ。
朝起きれば母と姉が父の朝立ち白チョコバナナ(隠語)を賭けて二人ジャンケン大会、通学路を行けばそこらの路地裏からアンアンと嬌声が響き、教室に入れば公然と舌を絡め合うクラスメイトの姿。
右も左も地獄天国桃色花畑、こんな世の中に誰がした。
ノーモアファック、ノーモアセックス!
一体全体誰に責任を求めればいいというのか、悪者は誰だと聞かれれば…そりゃあもう、取り敢えずは目の前で股間を押さえて悶え苦しむこの男。
全く、たちが悪いったらありゃしない。
「おうふ…久留美ちゃん…これ……これマジでヤバイって…僕のアソコ、いくらハイジに叱咤されても二度と立ち上がれなくなっちゃうってマジで…」
クララに謝れドサンピン。私が必殺シュートを決めたゴール(隠語)を両手で庇いながら、男はマットの上でくねくねと身を捩らせる。
その妙に余裕のある苦しみ方から見るに、どうやら必ず殺すと書いて必殺シュートの看板は仕舞わないといけないらしい。
それにしてもまだ生きてやがりましたか、たくましいですねセンパイのその、陰部は。
「何気に、手加減、してくれた…お陰でな…ぐふっ……あ、久留美ちゃん、今の恥ずかしそうに発音した『センパイのその、陰部は』ってところワンモアちょちょちょ怖い怖い!笑顔可愛いけど怖い!殺さないで下さい何でもしますから!!」
何でもするなら死ねい!
「それ殺されるのと結果同じじゃん!?」
リッチをベースに出来ている私にちょっと仲間意識を芽生えさせるほど青ざめて命乞いをする男。ふん、情けない。
まあその危機感はごもっともだ。こちとら半分は肉食昆虫、実行には移せずとも殺気だけは本物である。
そう、部活のセンパイだからといって手加減をする私ではない。遺憾なことに私だって一応曲がりなりにも魔物娘のはしくれ、命に関わる怪我を負わせるのは本能が拒絶するのだろう。するつもりはなくともしてしまうのだ、手加減を!
そうでもなければこんな男…私は、センパイなんかを指先ひとつで生命ロストさせるのに欠片ほどの罪悪も感じないし、命乞いだって歯牙にもかけない。冷酷!残忍!そんな揺るぎない意思が私にはある。あるのだ、意思だけなら!
なのに魔物娘の本能がこの男に然るべき制裁を下すのを邪魔する、それが現実の私だ。神は死んだ!
だいたい人を体育館倉庫に呼び出しておいて開口一番
『ぼ、ぼ、僕の娘を産んでくれ!』
などとおっしゃいますセンパイが居たら普通の女子ならどうします?私としてはその不埒な息子さん(隠語)を、右腕に備わった自慢の鎌で打ち首の刑に処して即座に墓に放り込み経など読みながらお香まで炊いてやりたいところ。センパイの事はそう悪からず思っていただけに裏切られた思いだ。幻滅ですよ幻滅。
普通の女子に産まれなかったこの身の不幸を嘆くばかりである。
「でも久留美ちゃん、キレる直前までは顔真っ赤にして嬉しそうに見えたんだけどなんでもございませんごめんなさい!ゆるして怖い!」
しゃらんと
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