夫婦の死闘は我が家を完膚無きまでに破壊し、瓦礫の山にしていた。
「こぉんのやろおおおおっ!」
『……!』
クレアの狙いすました右掌底がゼットンの顎の先端を撃ち抜く。しかし、普段ならば脳震盪を起こして昏倒するところだが、夫は踏み留まって倒れない。
「強くなったねぇ!」
だが、ようやくエンジンの温まってきたクレアは、先程のように怯まない。すぐさま夫の首に跳びついて足を絡ませ、後ろに仰け反った。
「しゃあ!」
躊躇する事無く、そのままフランケンシュタイナーでゼットンの首を床に叩きつける。夫は壊れた床をさらに壊しながら串刺しになり、不格好なオブジェとなった。
「“エグゾセ・ミサ――――イル”ッッ!!」
こうして“佐清”となったゼットンの背中目がけ、クレアは追い討ちとばかりに超高速のドロップキックを叩きこんだ。
その勢いでゼットンの首は床からすっぽ抜けたものの、そのまま壊れた壁を貫いて外に飛び出し、凍った地面に投げ出された。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……ン』
「………………」
鎧の妖力は確実にゼットンを蝕んでおり、彼の体をますます人間離れしたものとさせていた。普段ならばこのような攻撃を食らわされれば、最早動く事もままならないだろうが、今の彼にとっては軽傷にすらならない。
鎧を軋ませながら立ち上がったゼットンは、調子を確かめるかのように首を数度左右に傾けると、変わらずクレアを見据える。
(それにしても一体どういう事なんだろ、コレは)
ふと我に返ったクレアは、ゼットンの形に穴が開いた壁から周りを窺ったが、辺りが完全に凍りついているのが目に入った。
一体どういう事なのかは分からないが、ゼットンが襲いかかってきたのと関係があるのは間違いあるまい。
「ま、正気に戻すついでに聞いてみますか」
それでも夫がわざわざ自分を殺しにかかってきてくれているのだから、今はこの勝負を楽しみたい。クレアは邪念を振り払うかのように両拳をボキボキと鳴らすと、そのままゼットンに襲いかかった。
『何だ、貴様は?』
「『何だ、貴様は?』じゃねーよ馬鹿野郎! よくも人の男を拉致った上に私の家まで凍らしてくれやがったな!」
グローザムの背後に現れたのは、オーガのミレーユだった。左肩には所々に血錆が付いた六尺近い長さの金砕棒を担いでおり、そのせいか四肢は激しく筋肉が隆起し、端正な顔は憤怒のせいで禍々しいものとなっている。
何故彼女は無事だったのか? それは彼女がゼットン襲来時、たまたま街の近くにある森へ狩りに行っており、難を逃れていたからである。
しばらくして、狩りより戻ってきたミレーユは街が丸ごと凍りついているのを見て仰天したが、すぐさま金砕棒に括りつけた獲物を放り出し、リリー同様街中を駆けずり回った。
その内に彼女と同じく難を逃れたリリーがグローザムと対峙しているのを発見、物陰から様子を窺っていたのだ。
そして、リリーが逃げるのを確かめると共に、グローザムに夫の居場所を吐かせるべく現れたのだった。断片的ながら、クレア経由で拉致犯の情報を知っていたのである。
『チッ、生き残りか! 思っていたより取り零しが多かったが……まぁいい、順々に殺っていくか!』
舌打ちしたグローザムは、お得意の猛烈な冷気を吐き出した。しかし、怒りに燃えるミレーユは素早く躱して背後に回りこみ、強烈な右前蹴りを叩きこんだ。
その衝撃でグローザムはよろけてバランスを崩し、前のめりに倒れこんでしまう。
『ぬおっ!』
「んなモン当たるかボケ!」
『…おのれぇ! 俺に地を舐めさせるとは!』
強烈な一撃をくらったが、強固な鎧のせいかグローザムには全く効いていない。むしろ怒りに油を注いだだけのようで、ますます怒り狂った。
『凍るのが嫌なら細切れにしてやる!』
すぐさまグローザムはMBSを右手に持ち、光刃を起動させた。そして冷気とは逆に凄まじい熱を放つ光刃を水車の如く振り回し、斬りかかってきた。
「うらぁっ!」
『フン!』
勢い良く振り下ろされた金砕棒を、グローザムは光刃で受け止めた。そして超高熱の光刃は、分厚い金属製の槌頭を豆腐でも切るかのように切り裂く。
そのまま押し切って進んできた刃にミレーユは驚きつつも、すんでのところで躱したのだった。
「うわっ!?」
『ほう、思っていたより反射神経は鋭そうだ。通常、オーガやミノタウロスは腕力一辺倒の馬鹿が多いから、その分隙だらけで殺しやすいのだがな』
怒りを燃やしつつも、グローザムはミレーユを称賛した。しかし、そんな事よりもミレーユには気になる事があった。
「オーガを殺した事があるのか?」
『数は忘れたが、それなりにな……だが、問題はある
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