拮抗する宇宙恐竜 最凶の親子

《昔々、まだ人間が生まれておらぬ太古の時代。その頃の魔物達は隆盛を極めたが、同時に非常に邪悪で驕り昂り、さらには極めて欲深かった。
 そんな彼等がやがて神々の地位、さらには神界そのものを欲するようになるのは自然な成り行きであっただろう。しかし、その目論見もやがて神々の知るところとなる。
 不届きな魔物どもが愚かにも自分達に成り代わるつもりだと知った神々は当然激怒し、魔物を滅ぼそうと決断するまでに大した時間はかからなかった。
 けれども、魔物殲滅のために送り込まれたのは名だたる戦神や軍神ではない。送り込まれたのは、とある『一頭の獣』であった――――》










『貴方にはあの子の正体が予め分かっていたのですか?』

 ゼットン青年がふらついた足取りで何処かへと去ってしまったのと入れ替わりに、魔王城の上空に現れた怪物。その正体は言わずもがなであろうが、あえてバルベーローは魔王に尋ねた。

「いいえ」

 魔王は頭を振る。

「あの子は人間。私も含め皆はそう思っていたし、あの子自身もそう思っていたでしょう。
 言い換えれば、私でさえ欺くほどに巧妙な“化け方”をしていたということ」
『………………』
「でも……隠していたその正体を私は『知っていた』」
『え……?』

 バルベーローには魔王の言いたいことがよく分からなかった。

「初めて見たはずなのに、何故か既視感があったのよ。貴方も見覚えないかしら?」
『いえ、私はあの時恐怖の方が勝ったのでそこまで考える余裕は………でも、言われてみれば……』

 恐怖というが、魔物娘は元がおぞましい魔物であった名残として、巨大な怪物を見た程度の事では恐れを抱くことはない。
 事実、このソフィア皇后に似た女も、“本物”の性質を反映してか、見た目よりもかなり肝が据わっている。ゼットンの正体が何であれ、少々大きい化物の一体が現れた程度では平然としているだろう。
 にもかかわらず、彼女はあれほど取り乱したわけだが、それは初見であの怪物の脅威を見抜いた……というわけでもないようだ。

「あの姿を私達、いえ恐らくは全ての魔物娘が知っている。それは知識としてでなく、本能に刻まれたもの」
『本能?』
「顔も知らないほど古い先祖から脈々と受け継がれてきたものよ」

 魔王には確信があった。聡明な彼女はすぐに全てを理解したのだ。

「ならば、あの伝説も本当のことだったのね」









《主神が創ったのはもちろん、ただの獣ではない。それは大きく、硬く――そして何より生きとし生けるものの全ての中で最も『強い』。
 弱肉強食の世界で生き抜くべく力と知恵をつけた魔物どもが相手である以上、こちらもそれ以上、いや遥かに上回る怪物を主神は心血を注いで創り上げていた》










「な、なんだよアレ………一体何がどうなって」

 主君の無事を確認したクレアは消えた夫を探すため、そしてエドワードを助けるために魔王城の外へと戻ってきたが、僅かな間に状況は激変していた。
 いつの間にか現れていたのは無機質で禍々しい姿の巨大な怪物。それが魔王城の上空に浮かびながら、エンペラ一世に襲いかかっていたのだ。
 百戦錬磨の強者たるクレアもさすがにこの異常事態には面食らい、呆然としていたが、一方で何か胸騒ぎというか、心に引っかかるものもあった。
 あの怪物を己は何故か『知っている』。あれは『魔物の敵』でありーーーーそして何故か『自身の愛する者』であると。

『っ!』

 そんな蝿女の心情など露知らず、怪物はその死神の大鎌の如き両腕をエンペラ目掛けて振り下ろす。

『【インパクトシールド】!!!!』

 しかし、それらが刺さる寸前に皇帝は魔力を収束させた左腕を横薙ぎに振り、発生させた横長の衝撃波を盾として防いだ。

『ぐっ、ぬぅぅ……!!』

 けれども、それも所詮は一時凌ぎ。いくらエンペラが怪力無双だとはいえ、さすがに体格差がありすぎる。向こうは魔王城と同じぐらい巨大な怪物であり、本来人間が力比べ出来るような相手ではない。
 ましてや今立っているのは空中。足からの魔力噴射で地上同様に動けてはいるものの、それでも上からの攻撃を防ぐには極めて不向きな立ち位置である。

「………………」
『!』

 埒が明かぬと見たのか、怪物は両鎌を衝撃波から離すと上空に素早く跳躍する。一昨日戦ったバーバラよりずっと小さいとはいえ、それでも体長300mは下らない巨体の動作にしては異様に俊敏なものであった。

「なっ……!!??」

 怪物は高く跳躍すると両鎌を天に掲げ、その先に魔力を収束、超巨大な暗黒火球を作り上げる。そのあまりのエネルギー量にエドワードは言葉を失った。

『……ちとマズいな』

 皇帝の方もやや焦っていた。ここは王魔界、跡形もなく
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33