――王魔界・魔王城――
上階の半分が吹っ飛んだ魔王城で、今また激しい攻防が繰り広げられている。
『唸れ【エンペラインパクト】!!』
超広範囲を吹き飛ばす衝撃波。当たればリリムといえども身を抉られ、押し潰される不可視の波は、今いる階のさらに上層の大部分まで破壊する。
『!』
しかし、音速を超えるそれを上回る“超音速”の飛行速度で逃れていたクレア。吹き飛ぶ瓦礫の中にベルゼブブの姿はない。
『ぬっ!』
大技ほど発動時に隙が出来る。刹那の体の硬直だが、クレアはそこを見逃さず、背後から現れた彼女は皇帝をドロップキックで蹴り飛ばす。
(速いな。あれから逃れるとは)
感心しつつも脆くなった石壁に叩きつけられ、さらには壁が割れて外へと飛び出してしまう。
「僕もお忘れなく」
『!』
投げ出された先の空中では、今度はエドワードが待ち構えていた。
「【ライトニングブレードシュート】!!」
『【レゾリューム・レイ】!!』
弓を引くような構えで神剣の鋒より繰り出されたのは、回転する緑色の稲妻状の光線。しかし皇帝も右手から得意の破壊光線を放って即座に迎撃、光線同士は衝突して大爆発を起こす。
「む!」
『ふッ!』
爆発によって辺りが煙る中、その煙幕の中を皇帝は突っ切るもーー
「わっ!?」
同じ事を考えていたのか、煙幕の中を進んできていたのはクレアも同じ。しかし、見るまでもなく皇帝はそれを察していた。
皇帝の背中に肉迫しようとしていたベルゼブブの突進を絶妙なタイミングで避けて彼女を掴むと、そのままエドワード目掛けて投げ飛ばす。
「!」
だが煙の中から飛んできたベルゼブブをエドワードは受け止めることなく避けたことで、クレアは地上へと落下していった。
「あぁ〜れぇ〜〜〜〜………………」
『ほう』
一見薄情ではあるが、この場ではむしろ正しい判断だとエンペラは感心した。もしエドワードが受け止めていれば、皇帝はその瞬間二人まとめて光線を叩き込み、そのまま地獄行きまっしぐらであったろう。
「くっ……!」
だが、別に失敗したところでさして問題ない。さすがにクレアほどは無理なものの、それでもエドワードが驚くほどの速度で接近、即座に距離を詰めていく。
『………』
前回の戦いの際、何度も押し切られそうになったため、白兵戦は不利だと判断したエドワードは空中で後ろに跳んで間合いから離れる。そんな勇者を皇帝は睨みつけた。
「うぉっ!?」
普通はそう思うだろう。しかし、実際にはその視線の先に不可視の魔力が超高速で放たれた事をエドワードは勘づき、全速力で逃避する。
「……!」
案の定であった。ある程度飛翔したそれはやがて大爆発を起こし、王魔界の暗い空を明るく染めたのである。
『【インビジブルレイザー】を避けたか。残念だ』
皇帝は攻撃は避けられてそう宣うも、どこか愉快そうな笑みを浮かべている。
(冗談じゃない……! 例え丸腰だろうが、この男の強さは手が付けられない!!)
底の見えぬ皇帝の強さに戦慄するエドワード。それは遥か下で皇帝の様子を窺うクレアにも同じ事であった。
クレアが背後から襲えたのはあくまで皇帝の意識が偽皇后に向いていたからである。それが今となっては無防備なように見えて、実際は全方位へ意識を張り巡らせている。超音速の移動速度を誇るクレアでさえ隙を狙うのは相当困難であったのだ。
「………!」
それでもあえて皇帝に近寄ろうと再び超音速で飛翔しようとするもーー
「わぁぁっ!?」
皇帝は右人差し指から光線を連射して牽制する。
『………』
恐るべきはその精度、さらには“予測”である。一発目の光線の軌道でクレアが避ける軌道及びタイミングに合わせ、二発目の光線は放たれている。“必中”だと看破したクレアは全速力で躱すも、今度はその軌道に三発目が放たれていた。
「このッッ!!!!」
魔力を纏った右爪による咄嗟の殴打でどうにか軌道を逸らし、飛んでいった光線は魔王城を貫き、さらには街の石畳まで到達、地下まで貫通した。
(何だよコイツ……! 私が攻撃を避ける軌道と逃げ先まで完璧に予測してる! それに合わせた光線のタイミングまで完璧だ……!)
皇帝はクレアの方を見てすらいない。あくまで“片手間”で行なった攻撃にすぎないのだ。
全て避けきりはしたが、クレアは敵の実力に改めて恐怖し、小さな体躯の全身から冷や汗を滴らせた。
(……ゼットンもこんな気持ちだったのかな)
クレアの可愛らしい顔が畏怖と絶望で引きつる。
ゼットンがクレアにどう努力しても及ばなかったが、今またクレアとこの男との間に同じ事が起きている。
だとすれば、如何に酷な事を夫に強い続けていた事か。皮肉に
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