猛毒の宇宙恐竜 皇帝の罠

 ――ダークネスフィア――

 エンペラ一世によってエドワードが斃され、そのまま憎しみに満ちた復讐戦が始まるかと思われたが、すんでのところでそれは回避された。
 しかし、エドワードとの勝負は決した以上、エンペラ一世の獲物は目の前にひしめく魔物娘どもである。最早約定を守る必要も無くなり、皇帝は思う存分この不埒な生物どもを処刑する事が出来るのだ。

『フン。奴等がいつ戻ってくるのかは知らぬが……それまで目の前の此奴らを放っておく必要はあるまい』

 怒りに満ちた魔物達からの射殺すような鋭い視線に晒されるも、皇帝の闘志、殺意は全く衰えない。
 しかし、相次ぐ戦いのせいで状態は万全であるとは言えない。左腕は先ほどの【ファイナルエンペラインパクト】の反動でしばらくはまともに使えないのだ。
 だがそれでも、愚か者どもを始末するには十分過ぎる。

『殺るか』

 逃がすという選択肢は無い。それは例え取るに足らない魔物一匹であろうと、魔王の四女であろうと変わらない。
 魔物は全て殺すだけ。それが世の秩序と安寧を保つため、最短最良の道なのだ。
 その決意を示す如く、皇帝が真っ二つに折れた双刃槍をくっつけると、なんとそのまま接合、元通りに修復する。

「ブレないわね。でも、少しはそれ以外の選択肢を考えて欲しいものだわ」

 魔物達を掻き分け前に進み出て、そのまま皇帝を揶揄したのは、先ほど無様に倒され、さらには激昂していたはずのリリムだった。

『また貴様か。それにしても、怒ったり冷めたりと忙しい奴よ』

 デルエラはつい今しがたまで憤怒の形相を浮かべていたにもかかわらず、現在は元の妖艶で掴みどころの無い笑みへと戻っている。彼女の変わりようを、皇帝は呆れた様子で指摘する。

「これは失礼。でも、“親の死に目”を見せられては、ねぇ?」

 そんな彼の指摘を気にも留めず、相も変わらずそれだけで男を虜にする微笑みをエンペラに向ける。けれども、いつもと違って静かな怒りもまた伝わってくる。

『ほう、これは意外だ。貴様等に親子の情があったとはな。
 魔物とは親も子も無い、己の事しか考えておらぬ生物だと思っていた』
「それは旧時代の魔物の話。今の魔物娘には人間と同じ“心”があるの。
 ただ夫と愛し合うだけじゃない。親や姉妹の死は当然悲しいのよ」

 今の魔物娘には以前無かった“心”がある。怒りや憎しみだけではなく、ましてや性欲だけでもない。
 人間と同じように愛情や慈しみ、また悲しみもあるのだ。

「まぁ幸い、すんでのところでそれは回避されたけどね。
 貴方も気づいているでしょう? お父様は死なないわよ」

 それを是が非でもエンペラに伝えたいのか、笑ってはいるが眼だけは笑っていないという複雑な表情で皇帝を見据えるデルエラ。
 だが、皇帝に言わせればそれは間違いだ。正確に言えば、一度死んでいる。ただ、すぐに蘇らせられたであろう事は容易に想像が出来た。
 即ち、彼を殺すにはこのダークネスフィアで仕留めたと同時に、その妻の介入を防がねばならないという事だ。いくらエンペラ一世と言えど、これは相当に難しい。

『それがどうした? だから何だというのだ?』

 しかし、エンペラは気楽というか、単純に考えていた。

『生き返るのならば、また殺せばよかろう。奴はその度に己の無力を思い知る。
 毎度勝てずに殺されるのだ。やがては蘇る気力など無くなるであろう』

 生き返るのならば、また殺せばいい――その内、向こうも生き返るのが嫌になるほど、それを繰り返してやる、と。
 そして、それが己ならば出来る。例え魔王とその夫が何度蘇ろうが、その度に滅ぼしてやる。

「……」
『だがまぁ、こうは言ったが、余も戦いが泥沼になるのは至極面倒だ。
 故に、何度も蘇って余に挑むという行い自体がそもそも馬鹿げたものだという事を、出来る限り早めに悟ってくれると嬉しいのだがな』

 もっとも、手間がかかるのはさすがのエンペラも避けたいところ。故に、魔王夫妻が出来る限り早めに無駄な抵抗を止め、さっさと死んで欲しかった。

『もっとも、これは叶わぬ願いであろう。奴が極めて頑固で愚かだという事は、この戦いを通してよく解ったからな』

 目を細めた渋い顔で語る通り、皇帝はエドワードの事を大いに認めてはいたが、同時にその欠点もまた把握していた。
 頑迷な勇者は繰り返される死の恐怖と苦痛を理解しようとさえしないであろう。無為に戦いを挑んでは殺され、蘇るのを繰り返すのは容易に想像出来た。

『ならば、余が根気強く教えてやる他あるまい。
 繰り返される己の死の苦痛に耐えきれず、「これならばあの世の方が余程過ごしやすい」と理解するまでな…』
「言うわね……」

 魔王夫妻相手であろうと己の勝利を疑わず、傲岸に言い放つエ
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