――レスカティエ北部・グリムセイ街――
(油断したな、ヤプール!)
ヤプールが勇者相手にあっさり敗れ去った事を、グローザムは遥か遠方より感じ取り、その不甲斐なさに憤る。
(フン……“お互い手出し無用”が七戮将たる我等の不文律。我々が奴の失態を尻拭いする必要はない)
配属されたばかりの新兵なら助ける気も起きようが、ヤプールは一軍を率いる歴戦の将であり、当然実力は折り紙付きである。だからこそ、グローザムは同僚を助ける気はさらさら無い。
そもそも各自が一人で一国家を攻略し得るほどの規模の能力を誇る弊害で、全力を出せるのは皮肉にも味方のおらぬ一対多の戦闘である。故に七戮将が本気で戦う際には“各所に一人ずつ”というのが暗黙の了解。
当然、最初から単独で戦うのが前提であり、その強さ故に救援を送る事は想定されていない。
(……ならば楽だったが)
……と言いたいところだが、残念ながらそうはいかない。
なにせ、Mキラーザウルスを始めとする近未来テクノロジーや浮遊島の造成・構築、任意の場所への空間移動魔術式の帝国軍全体への普及など、ヤプールの業績を挙げればキリがない。そして当然、それらの知識が生み出した彼本人の頭の中に詰まっている以上、その身柄が魔王軍に渡る事になれば、それらも漏れてしまうやもしれない。
もし彼が魔物どもに拷問を受けて情報を喋ってしまえば、今までエンペラ帝国軍に有利だった状況が途端に覆ってしまいかねないのだ。
そして何より恐ろしいのが、帝国の本拠地が魔物どもにバレてしまう事だ。防備こそ固めてあるが、あくまで人間の出来る範囲内。王魔界のように空間の大気そのものが侵入者へ牙を剥くような非常識なものではない。
当然、魔物どもが本腰を入れて攻め込めば、いくらエンペラ帝国軍の精兵といえど、そう長くは持ち堪えられないだろう。そうなればエンペラの民は残らず魔物に変えられる。それだけは絶対に、何としても絶対に防がねばならない。
『遅れてきた挙句、敵に捕まるとは世話の焼ける奴だ!』
ならば、一刻も早くレスカティエを離れればならない。このサイボーグ戦士は心ゆくまでレスカティエの破壊と魔物狩りを愉しむつもりだったが、それが出来なくなった事で実に不愉快な心持ち、苛立ちを隠せなかった。
『出てこいカスども! そんなにこのグローザムが怖いか!?』
しかし、そんな彼を苛立たせる原因がもう一つ。グローザムの剣技と冷気を恐れてか、魔物娘どもは遠巻きに矢を射って牽制するだけでろくに姿を現さない。
彼が斬り、凍らせたのはいずれも一般人などの非戦闘員。大勢殺しても大した手柄になりはしないため、あの黄緑色の髪をした小賢しいワーウルフを探すが、彼女は一向に姿を現さず、虚しく声が轟くばかり。それでも矢自体は一応飛んでくるが、探知能力圏外の上に魔術による隠蔽により全く敵の居場所が分からないので、さすがの彼でも探すのは骨であったのだ。
――レスカティエ西部・エトヴェシュ街――
『ギィィィィィィィィッッ!!!! 馬鹿だぜアイツは!!』
凄まじい怒りを見せるアークボガールはその鬱憤を晴らすかの如く、辺りの家々を己の発する超重力で手当たり次第に破壊していた。
『研究室に閉じこもる時間が長すぎて耄碌したのかァ!?』
狂ったように大声を張り上げるアークボガールだが、それも無理からぬ事であった。彼とヤプールには、エンペラ一世の麾下に入る以前より深い因縁があったのだ。
『情けねぇ、情けねぇ!! かつて俺と覇を争った、大陸の半分を支配したという軍閥の長がヨォ!! あっさりと負けやがってヨォ!!』
もう550年余り前になるが――とある大陸を東西で二分したという二つの軍閥があった。
西半分を支配していた軍閥の長は当代随一の科学者にして魔術師たる、“不滅なる異次元空間”と恐れられたヤプール・ユーキラーズという男。一方、東半分を領していたのが彼、アークボガール・ディオーニドである。
かつて自らの軍を率いた二人は己の領地を拡大すべく、それぞれが敵地へと攻め入り、殺し合っていた。しかし、お互い類稀に強力な能力を持ち、また強大な軍事力を有してはいたが、それ故か実力は互角で決め手に欠けた。そのせいか、両者の勢力は長い間拮抗していたのだ。
しかし、ある時この大陸に新進気鋭の勢力『エンペラ帝国』が攻め入って来た。そうしてヤプール、アークボガール、帝国の三竦みになると思われたが、帝国を率いる“救世主”エンペラ帝国皇帝エンペラ一世の力の前に結局彼等は屈服する。しかし、その強さを皇帝に惜しまれたが故、生き残った部下共々その麾下へと加わる事となった。
それから二人は過去の因縁を水に流し、共に皇帝へ仕えた。皇帝の死後も目的を見失わず、亡き主君
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