――ダークネスフィア――
「はッ!」
エドワードはようやく目を覚ます。
「何をされた!?――うぅっ!」
そのまま起き上がろうとするも、途端に全身を走る痛みに耐えかね、呻き声をあげて体を震わせる。
(………………あれから記憶が無いが……どうやら相当遠くまで飛ばされたらしいな)
見れば、何故か自分の体は大地にめり込んでいる。さらに、彼の前方には肉眼では確認出来ぬほど遠くから引きずられた痕があった。
記憶が曖昧故に予想出来るのは、何らかの強烈な力か何かで吹っ飛ばされた末に大地に落下するも勢いを殺しきれず、ここまで引きずられたらしい。
(予め防御しておいて正解だった)
エドワードは安堵した表情で溜息をつく。あの時、これ以上無いほどの強さというぐらいの防護結界を張っておいたが、それが吉と出た。
彼の【ナイトブレイブシュート】があっさり掻き消されるほどの威力の攻撃を防御せずまともに喰らえば、例え生きていたとしても虫の息だったであろう。結局のところ、殺されるのが少し遅れるだけだったに違いない。
「うっ…つつ……やっぱり痛むな」
しかし、それでも攻撃の全てを防ぎきれたわけではなく、全身には大小少なからず火傷を負っていた。四肢に至っては筋繊維の損傷及び骨の所々にヒビが入り、それは肋骨や顎の骨も同じである。
(だがまぁ、それでも戦える)
否、戦わなくてはならない。彼が息を潜めて隠れていたとしても、わざわざ見逃してくれる相手ではない。
「ん……」
ダークネスフィアの闇の中でそう己に言い聞かせている最中、エドワードの頭上に天より一筋の赤黒い光が差す。
「……っ! そうら、おいでなすった!」
しかし、それは彼を照らす陽光などではない。正体に気づいたエドワードが慌てて立ち上がり、その場より飛び退いてより数秒後、そこへ極太の光線が突き刺さる。
「うぉぁぁっ!」
だが躱しはしたが、光線は渇いた大地を深く穿ったところで、さらに大爆発を起こす。その爆風によってエドワードは吹き飛ばされてしまう。
『また会えて嬉しいぞ、勇者よ。しかし、再会して早々逃げ出すというのは、ちとつれないと思わぬか?』
「!」
凄まじい爆風に呑み込まれて吹き飛ばされる中、空中でどうにか体勢を整えようともがく。そんな勇者に虚空より語りかけてくるは件の男。
『吠えろ!! 【エンペラインパクト“狼牙銃(ロウガガン)”】!!』
吹っ飛ぶエドワードの軌道上に現れたエンペラ一世は再会を祝し、勇者の背中目がけて凶暴なる左手の攻撃を喰らわせる。
「ぐぁあァァア!!」
『バウ!! バウ!! バウバウバウバウバウバウバウバウウウウ!!!!』
吹っ飛ぶ勇者を捕まえ、その胴体に咬みつくは、巨大な狼の頭部を模した形へと凝集した強力な衝撃波。それが唸り声をあげながら何度も衝撃の牙を突き立て、たまらずエドワードも悲鳴をあげる。
『ペッ!』
やがて狼の弾頭はエドワードの味に飽きたのか、彼を口から吐き出す。
『【エンペラインパクト“犀角(サイホーン)”】!!』
「うわぁあッ!!」
けれども間髪をいれず、エンペラは狼型の衝撃波を今度は角の長いサイの如き形状に変化させると、それを落下するエドワードへ追撃とばかりに叩きつける。
『では、さらばだ勇者よ!!』
凄絶な笑みを浮かべたエンペラはそのまま体重をかけながら共に落下、弾いたエドワードをその左手のサイの角で大地ごと貫こうとする。
「…もう勝利宣言か?」
そうして高所から地面に叩きつけられ、さらには前面からサイの角を突き刺されたはずのエドワード。
「それは早過ぎるんじゃあないか!?」
『ぬ!?』
だが、衝撃波にさらされたはずのエドワードは何ともない。それどころか、突き刺したはずのサイの角は何故か狙いの心臓を逸れ、勇者の右横に刺さっていた。
「【衝撃流し】――実戦からしばらく離れていたせいで、ようやく今発動出来たがね!」
『何ぃ!?――がふぁ!?』
技を防がれた刹那の驚きの隙を突き、エドワードはエンペラの顎を右脚でおもいきり蹴り上げる。
エドワードもまたエンペラ同様、人類最強と謳われた戦士。立て続けに衝撃波を喰らっている事でエンペラの技の性質を把握しつつあり、結果体術と魔術の併用によって無効化出来ると看破したのである。
「お返しだ」
よろけたエンペラに素早く接近したエドワードは、そのまま皇帝の胸に左右の掌を当てて構える。
「【レボリウムスマッシュ】!」
『ぬぅぁあァァァァァァッッ!!!!』
仰け反りながらも反撃しようとしたエンペラより一瞬疾く、勇者の両掌より衝撃波が打ち込まれ、今度は逆に皇帝が絶叫をあげて吹っ飛ぶ。
「さて、これでようやく当てられるな」
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