――レスカティエ――
レスカティエの実質的な主であるデルエラも時折国を離れ、留守にする事がある。とはいえ、彼女がいなくとも魔物娘達の日々の営みは別に変わらない。常に夫と仲睦まじく寄り添い、交わる事に変化などないのだ。
しかし、この国は元々神の御下、敬虔なる神の信徒達の王国。それを奪い去り、その住民達がそのまま魔物へと変じたという事情から、常に不可侵を保っていたわけではない。
これまでの経緯から当然、教団はその雪辱を果たそうと、そして他の教団圏国家はレスカティエの二の舞を演じまいと、これまで幾度も軍勢を率いて攻め入って来たのである。
だがしかし、幸か不幸か成功した試しはない。勇者を擁していても尚、魔王軍との間には隔絶した実力差があったのだ。
無謀にもレスカティエに攻め込んだ者は、デルエラとその配下達の圧倒的な力により皆返り討ちにあい、魔物やインキュバスへともれなく変えられていった。
けれども、それでも教団は諦めず、戦力が整う度にレスカティエへ軍勢を送り込む。だが、結果はいつも同じだった。
このように絶望的、あるいは無駄な試みを数度行なったところで、ついに教団もこれ以上の意地は張るに値しないと悟った。これまでの執着が嘘のように、連中はレスカティエよりあっさり手を引いたのである。
こうして事実上の不可侵を勝ち取ったこの国は、デルエラの下ますますの繁栄を遂げる。きらびやかな中央部の栄華の陰で貧困に喘ぐ多数の貧民街との格差は是正され、国民は等しく繁栄に与り、飢えに苦しむ者は消えた。魔物への第一の防波堤だったレスカティエは、皮肉にも魔物に支配される事により、その諸問題を解決に導いたのである。
そして、そんな繁栄の時代が続いてより既に三百年余り。魔物と化した人々は平和と繁栄を謳歌し、今日もまた淫らで幸せな一日が始まる――
『フッフッフッフッ!!!!』
『ハァーッハッハッハ!!!!』
『ギシシシシシシシシ!!!!』
『グハハハハ……!!』
『わはははは……!!』
『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!』
――はずだった。
『怖がることはない』
人知を超えた速度で振るわれる四本の熱光刃。そして何物をも凍てつかせる極地の無情なる冷風が、レスカティエ北部で吹き荒ぶ。
『首を刎ねるのも……凍りつくのも……一瞬で終わる!!』
エンペラ帝国軍七戮将・氷刃軍団長
“氷原の処刑人”グローザム・ヴァルキオ
『ギィ〜〜シシシシシシシシッ!!』
西部ではこの世で唯一、重力の軛より逃れた巨体が縦横無尽に飛び回る。
一方、彼以外の全ての物質は自らの重さに耐え切れなくなり、次々に跪き、やがては崩壊していった。
『さぁ、跪け!!!!』
エンペラ帝国軍七戮将・貪婪軍団長
“重力の支配者”アークボガール・ディオーニド
『グオオオオオオオオ!!!!』
南部では紅く染まる空より無数の燃え盛る流星が飛来し、さらには大地の至る所で火炎やマグマが噴き出し、万物を悉く焼き尽くす。
『父なる天よ! 母なる大地よ! 我が敵に過酷なる裁きを与え給え!!』
エンペラ帝国軍七戮将・爆炎軍団長
“爆炎の喧嘩王”デスレム・ガミリア
『フッフッフッフッフッフ!!!! 御機嫌よう……品性下劣にして愚昧なる、レスカティエ国民の皆さん!!
では早速ですが、私に見せていただきたい……』
東部では突如空を覆い尽くした雷雲より、数千発もの稲妻が降り注ぐ。
それらは当たるもの全てを打ち滅ぼし、その光景は容赦なき天の怒りを思わせた。
『貴方達の絶望しきった表情、そして哀れにして無惨なる死に様を!!』
エンペラ帝国軍七戮将筆頭・雷電軍団長
“悪意の稲妻”メフィラス・マイラクリオン
『ようこそ勇者殿…』
そして中央部では、魔王の夫たる元勇者エドワード・ニューヘイブンが、あらゆる法則が目まぐるしく変化する異次元空間に包囲されていた。
『“ヤプールの世界”へ!』
エンペラ帝国軍七戮将・超獣軍団長
“不滅なる異次元空間”ヤプール・ユーキラーズ
「…このッ」
足止めをくらい、エドワードは大いに苛立つ。しかし、そんな事情にもお構いなく、鋼鉄の機械獣は異次元を経由し、あらゆる角度より熾烈にして理不尽極まる攻撃を繰り出してくるのであった。
――王魔界・魔王城、ガラテアの部屋――
ベッドに寝かされていた男だが、やがて意識を取り戻す。
「……っ」
頭が割れんばかりの激痛に耐え切れず、気を失ったゼットン青年。だが、すぐに義理の母の適切な治療を受ける事で、それ以上の事態の悪化は避けられた。
そして、夫の身を案じたガラ
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