――ダークネスフィア――
大出力の光線同士の衝突による大爆発。それによって辺りは爆風に包まれ、暗黒の大地を鮮やかな朱色に染め上げる。
『………………』
しかし爆発を起こした張本人、エンペラ帝国皇帝エンペラ一世は自身もまともに爆風に浴びておきながら全くの無傷、意に介する様子すらない。それどころか、爆風の熱によって地獄の如き光景へと変貌した荒野を見下ろしても尚、彼の黒い瞳に宿る冷たい光は微塵も熱を帯びなかったのである。
『……ほう、生きているか』
しかしそんな冷酷な彼であるが、爆発に巻き込まれたはずの巨竜が全身から血を滴らせながらも立ち上がった時、似つかわしくない喜色を露わにした。彼の現在の最大の関心事は、この竜の生死にあったのだ。
『結構結構。この程度で死ぬようではつまらぬからな』
愉し気にそう口走るエンペラ一世。彼にとって、この戦いの一時は出来るだけ愉しいものにしたいため、相手が簡単に死ぬようでは困るのだ。
「ギッ……ガガッ……」
だが、竜王バーバラも爆発から生還したものの、苦しそうな声をあげる通りダメージは少なくないようであった。とはいえ、竜族は高い回復・再生能力を有しているため、この程度ならば戦闘中に自然治癒するはずである。
…もっとも、それはあくまで『これ以上攻撃を受けなかった場合』に限るが。
『どうした、余が憎いのではないのか? そのザマでは何も出来ぬまま余に殺されてしまうぞ?』
どうにか立ち上がりはしたものの、負傷のせいでふらつく巨竜。しかし、皇帝はそんな事はお構いなく挑発し、彼女のさらなる怒りを煽った。
「ッ!………………ギュイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアア!!!!」
ドラゴンは誇り高い。人間どころか、他の魔物すら見下している。
そして、そんな彼女等が我慢出来ぬのは、その見下しているはずの他種族から侮辱を受ける事である。
「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
当然、彼女等は挑発行為に対して滅法敏感であり、例え負傷していようが無視など出来るはずもない。ましてやこの男はバーバラの一族を彼女以外根絶やしにした仇敵。魔物娘としての本能を上回るほどの憤怒と憎悪を滾らせている今、売られた喧嘩を買わない道理は無かった。
『フフ……実力は無いくせに、プライドだけは一人前というところか』
一方、竜王と呼ばれる最高位のドラゴンらしからぬその様を滑稽に感じ、失笑するエンペラ一世。
安い挑発一つでここまで怒り狂うとは実に愚か。皇帝にとってこのドラゴンはまさに単細胞の馬鹿そのものだった。
とはいえ、本来このドラゴンはもっと賢いのであろうし、そもそもドラゴンという種自体が高い知能を持つのは今更言うまでもない。しかし、一族の仇に対する怒りと憎悪がバーバラの慧眼を曇らせ、『エンペラ一世相手に無策で真正面から挑む』という、実に単純で愚かな戦法に拘らせてしまった。
「ガァァッ!!」
『……』
全身の傷より血を滴らせながらも、さらに怒り狂うバーバラ。
激昂するドラゴンはその溢れんばかりの憎しみと恨みを晴らそうと、空に浮かぶエンペラ一世目がけて大出力の光線を撃つ。
『無駄だ』
だが、皇帝は眼前に即座に迫った光線を、強大な魔力を帯びた左腕であっさり払いのけてしまう。
「!!」
『あれだけ繰り出しておる以上、今更見切れぬはずがあるまい』
皇帝が呆れ顔で語る通り、バーバラはもう十発以上も光線を繰り出していた。
確かにその威力こそ馬鹿げてはいるが、初動自体は単純である以上、あれだけ乱雑に繰り出されれば見切るのは至極容易い。
「ググ……ッ」
目を血走らせ、周囲に響き渡るほど大きな音を立てて歯噛みするバーバラ。
竜王であるはずの自分の攻撃が何故通じない? その事実に彼女は大いに焦り、それ以上に屈辱を覚えた。
『悔しがるのは結構だが、殺し合いの最中に隙をさらすのは感心せぬな』
目の前の敵を注視せず、自らの世界に閉じ籠もるのは致命的な隙をさらす事となる。それは戦いの基本、修めておくべき心構えの一つであり、バーバラほどの者に対しては今更指摘する事ではない。
しかし、このドラゴンはそんな基本すら忘れて自らの世界に没頭してしまい、皇帝から目を離してしまっていた。
「!」
そして、バーバラの意識が現実に引き戻された時には、既に皇帝は姿を消していた。遅れること数秒、ドラゴンは慌てて周囲を見回すも、男の影すらない。
『ウスノロめ。余はここだぞ!』
「ッ!!」
探し回る最中声がしたのは、四足歩行であるバーバラにとっての死角である腹部下の空間。すぐに長い首をそこに突っ込み、ようやくエンペラを発見するものの、時既に遅し。
『ぬぅうぁあぁッッ
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