――ダークネスフィア――
『余の奥義にして、“この世における最強の一撃”。卑しいその身に受ける栄誉を噛み締め、大いに感謝して逝くがいい!』
重傷を負って最早動く事もままならぬ竜王バーバラ目掛け、エンペラ一世が投げ落とすは、断罪の一撃【プラネット・デストロイヤー】。
「……ッ!!」
これだけ傷めつけられた以上、もう逃げる力など残っていない。だが、元々刺し違えてでもこの男を討ち果たす覚悟故、そもそも逃げる気など無い。
「ギュァァァァァァッッ!!!!」
逃げるも叶わぬ、殺すも叶わぬ、皮肉にも待つのは死のみ。ならば、せめて一矢報いてくれよう。散り様はせめて派手にしてくれよう。
あの竜は敗れたとはいえ、それは天晴な最期であった。そう後世に語り継がれるような、勇敢な姿を最期に見せよう。
――そう覚悟した竜王はその大口を限界まで開ききり、今後の生をかなぐり捨てた、今までで最大の魔力を口内に収束する。
『無駄な真似を……』
「あら、命を懸けた行動を嗤うなんて。かつて世界の大半を手中に収めたという皇帝陛下も意外と無粋なのね」
『ぬ!』
「!」
突如虚空に響き渡る、艶めかしい女の声。そしてその声に、皇帝も竜王も聞き覚えがあった。
「ひとまず、出力は下げて撃ってちょうだい」
「……ギュイイイイイイアアアアアアアアアアアア!!!!」
その一言で意図を理解した竜王は、その甲高い咆哮で『了解』と言ったのだろうか。
相当の大出力には違いないが、生命維持に問題が出ない程度まで威力を下げた光線を上空目がけて放出する。
『やはり生きておったか。もっとも、いくら待てども戻ってこぬから、そのまま無様に逃げ出したのだと思っておったがな』
「ウフフ……ご心配なく。配下を置いて一人おめおめ逃げ帰る真似なんてしやしないわ」
投げ落とされた光弾、打ち上げられる光線。そしてその狭間、殺し合いの真っ只中に空間転移で現れたのは、ようやく傷を癒やした第四王女デルエラだった。
『成程、一人惨めに逃げ帰るよりは、部下と共に潔く死すのを選ぶと申すか。
下衆な魔物風情にしてはなかなか殊勝な心がけよ。そこは誉めてやろう』
「残念、死ぬ気は無くてよ!」
自分は必ず生きて帰る。バーバラも殺させない。
その意思表示をするかの如く、デルエラはブリリアントカットのダイヤモンドにも似た鏡面結界を展開し、自身の周囲を覆い尽くす。
そして間髪をいれず、リリムの背後より光線が直撃するも、展開された結界によってそれは吸収されてしまう。
『ほう、潔く死ぬ気かと思っておったが……まさかここで【プラズマ・グレネイド】とはな』
「あら、御存知? じゃあ、私が何をしようとしているのか……分かるわよね?」
前方より迫る【プラネット・デストロイヤー】もまた、リリムの鏡面結界が同様に吸収し、消滅してしまったのを見た皇帝は、少々残念そうな顔をした。
「まぁ、これ程の魔力なら、この私でも増幅出来る量はたかが知れてるけれどね。でも……」
そう言いかけたところで、デルエラが大きくその禍々しい配色の目を見開く。それと同時に結界より皇帝に向かって放たれたのは、【プラネット・デストロイヤー】にバーバラの破壊光線を加味し、さらにそれらを二十倍に増幅したという馬鹿げた威力の光線だった。
「それでも貴方が簡単に防げる威力ではなくてよ!」
とはいえ、そんなものを放っておきながらも、デルエラにはエンペラを殺す気などない。
彼女の狙いはあくまで皇帝がこの光線を全力で迎撃あるいは防御手段を取り、それによって大きく疲弊させる事にある。
そして、デルエラは皇帝が攻撃に対して一切の回避行動を取らず、真正面から迎撃する事を確信している。ちなみに、その理由は簡単だ。
彼は“救世主”としての次元違いの戦闘能力と、皇帝としての矜持を持つが故、自らに立ちはだかる全てのものを見下している。そんな高すぎる自尊心が、敵の攻撃を全て真正面から受け止め、叩き潰すという意外に正直で豪快な戦い方として表れているが、同時に『この程度の攻撃を避けるなど恥』という実に余計な意地を張らせ、いちいち非効率的な戦法を取る事にも繋がっている。
『そうでもない』
「!」
だが、そう上手く事が運ばないのが現実というもの。リリムの思惑と違い、この程度はまだ皇帝にとって危機でもなんでもなかったのだ。
『目覚めろ!! 【アーマードダークネス】!!』
伝説のリリムたるデルエラの前でも尚、不自然なほどに沈黙を守っていた暗黒の鎧。だが、主の呼びかけにより、ここでついにその本性を現す。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……ン』
暗黒の鎧は金属の軋む音を上げると、今まで封じられていた魔性を解放するかの如く、不気味
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