――エンペラ帝国領ネオヴァルハラ、王城・玉座の間――
エンペラ帝国において最近になって決められたのは、盗聴及び内容の流出を避けるため、重要な会議は占領した国でなく、必ずこの浮遊島の王城内で行うということである。
そして今日もまた、皇帝臨席の下、玉座の間にて会議が行われていた。
『では、次はフリドニアの現状についての報告です』
王城自体が極めて広く造られているが、当然玉座の間もまたその例に漏れず間取りは広い。数十mもの幅を誇る豪勢な部屋に、長大な長机がいくつも置かれ、そこに帝国軍の歴戦の将兵達がずらりと並ぶ。その様は非常に威容があり、また壮観である。
『ようやくフリドニアの住民も我等の支配に服しつつあります。フリドニア軍を壊滅させたことは恨まれているものの、占領した我等が乱暴狼藉を行わず、穏当な統治をしていることは評価されているようですね』
議長を務めるメフィラスが、ここ最近の報告を読み上げる。
『さもありなん。そもそもフリドニアの王侯貴族と教団幹部どもが乱世にかこつけて重税や贅沢三昧、やりたい放題し過ぎていたのだ。
我等はそんな真似をするバカどもをこの世から抹殺し、悪の元を断った。苦しい日常から救い出してやったのだから、民衆からは当然感謝の言葉の一つも出よう!』
エンペラ帝国のフリドニア侵攻は、正義の下に行われた義挙だとでも言わんばかりに、グローザムは自慢気に語る。
『グオオオオ……しかしグローザム、侵攻の際に敵兵を少々殺し過ぎてしまったのは失敗だった。本来、軍隊というのはいくら強くとも、敵を殺し過ぎるのはあまり良くないのだ。
フリドニア国民の中には連中の親兄弟も当然いようから、この後に我等がいくら善政を施そうが恨みは抱く。そして我等が敵を殺せば殺すほど、その恨みは深くなるのだぞ』
驕るグローザムを見かねたデスレム。これ以上は油断せぬよう彼に釘を刺す。
『何を弱気な!』
『まぁ落ち着きなさい、デスレムの言う通りですよ。敵を皆殺しにするのが常に最良というわけでもないのです』
『ぐぅ…!』
メフィラスもデスレムに同調したが、それがグローザムは気に入らない。
『グローザム、今は御前会議ぞ。陛下も臨席しておられるのを忘れるな』
『………………』
ヤプールの制止を受け、グローザムは玉座に座る者の存在を思い出す。故に、これ以上の見苦しい態度と発言は控えたのだった。
『まぁ、グローザムの逸る気持ちは余も解らぬでもない。いくら大国といえど、フリドニア一国にいつまでもかかりきりになるわけにはいかぬ』
『…おぉ、陛下!』
この会議において皇帝が初めて口を開いたが、その第一声が己の発言を肯定してくれた事。それをグローザムは非常に喜んだ。
『メフィラス、フリドニアの内政はお前に任せよう。
当面の間、民に不満を感じさせるな。さすれば、恨みは燻れども民衆は大人しくなろう』
『はっ…』
『!?』
この言葉は、ある意味一国を任されたも同じ。国土も大きく、人口も多い大国のために難しい事も多いだろうが、メフィラスは内心喜んでいた。
一方、喜んだのも束の間、仮とはいえ広大な領土が同僚にいきなり与えられたことに、グローザムは驚くと共に嫉妬した。
だが、メフィラスは宰相を務めている事から分かるように、軍事だけでなく政治にも明るい。それはグローザムも認めざるをえず、また皇帝の決定に異を唱えることも躊躇われたのだった。
『そう慌てるな、グローザム』
『…!』
皇帝もグローザムの慌てふためく態度から彼の心中がよく分かったのか、なだめるように笑みを浮かべる。
『おっと、話がそれたな。ではメフィラス、本日の内容を皆に説明しろ』
『はい、陛下』
皇帝に恭しく頭を垂れると、メフィラスは説明を始める。
『我がエンペラ帝国のフリドニア制圧後、教団圏国家群は愚かにも徒党を組み、同国を取り戻そうと攻めこんで参りました。しかし、結果は火を見るより明らか、いたずらに犠牲者を増やすばかりです』
メフィラスの説明通り、連合軍はテンペラーとタイラントに先遣部隊を壊滅させられた後も度々兵を送り込んできていたが、それらは全て返り討ちにあっていた。
そもそも連合軍は主神教団の命令で各国が渋々兵力を供出し、嫌々戦っているだけの烏合の衆。そんな連中が士気・練度・装備の充実した帝国軍とまともに戦えるはずもない。
『しかも無駄な損害を出しつつも、それを理解していないのか一向に無策でただ突っ込んでくるばかり。故に、諸君らが今の調子で叩いてくれれば問題ないと言えます』
この黒衣の宰相が語る通り、エンペラ帝国は連合軍など歯牙にも掛けていない。いくら何十万もの軍勢を抱えていようと、彼等自身の抱える諸問題がそれを台無しにしているのだ
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