――魔王城・ガラテアの部屋――
「うぅ〜ん……」
「………………」
ガラテアはさすがリリムなだけあり、ゼットン青年の魂の傷を、その秘術を用いて修復することが出来た。しかし念のため、今日一日は経過を見たいと思い、彼を自身の部屋に留め置くことにした。
「ゼットンは大丈夫なのですか?」
ベッドでうなされるゼットン青年の姿を見て、心配そうに尋ねるクレア。なんだかんだで夫には過保護な彼女は心配し、ガラテアの部屋を訪ねていたのである。
「ひとまずは大丈夫よ……ひとまずは、ね。
ただ、今後症状が再発するどころか、むしろ悪化して彼がひどく苦しむことになるかもしれないのは頭に入れておいてちょうだい」
良くない報せに、クレアはその可愛らしい顔を曇らせる。
「夫の症状は完治しないのですか?」
「普通ならば、リリムである私の力なら治せるわ。でも、今回のケースは別。
この子に影響を与えている力の持ち主は、私よりもずっと強い。お母様とお父様にも尋ねてみたけど、結局私と同じ程度の治療しか出来ないって言われてしまったわ」
ガラテアの表情もまた、とても深い悲しみに満ちたものであった。しかし、クレアは先ほどから一転、驚愕の表情となる。
「魔王陛下でも治せない…!?」
そもそも魔物娘が今の姿と生態となったのも、魔王の力の一端にすぎない。それほどの力の持ち主が、この青年の症状を完全には治せないと言うのだから、クレアが驚くのも無理はない。
「一時的な治療なら私でも出来る。でもその時は治っても、近い内に魂の傷はまた開くし、その度に悪化していくわ。
そして、最後には私でも治療出来なくなるぐらいに傷が開いてしまい、彼はもう動くことも出来なくなるぐらいに体調も悪化するでしょうね」
「そ、そんな……」
夫の辿るであろう末路を聞かされ、クレアの顔は蒼白となる。
「……一つだけ完治する方法はあるにはあるのだけれど……」
「あるのですか!?」
「……そのやり方は魔物娘には到底受け入れられない方法なのよ」
一つだけだが、ゼットン青年の病状を完治させる方法はあった。しかし、何か問題があるのか、リリムは言葉を濁したのだった。
「…?」
「簡単よ。力を流し込んでいる者がいなくなればいい。
あ、でもそれじゃちょっと分かりづらいか……まぁ、ありていに言えば、力の発生源である者が死ねばいいのよ」
「!」
そう淡々と語るリリムの顔は真剣で、そして非常に暗い印象のものであった。何より、人間を愛する魔物娘が発する言葉ではない。
「彼の病気を治すにはそいつが死ぬのを待つか、殺すしかないわ。
でもね…いくら彼が苦しんでいるとはいえ、そのために人が死ぬのを願うなんてやってはいけないことよ」
それはクレアも同意であり、黙って頷いた。
「そう、本来ならね…」
「…?」
しかし何か含むことがあるのか、ガラテアは悔しそうに呟く。
「…この子が魂を共鳴させている者が誰か、あなたには分かる?」
「いえ…」
ガラテアの問いに対し、クレアはかぶりを振る。
「彼が今日訪ねてきた時、恐らく暗黒の鎧絡みだろうと告げられたわ。で、私もそう思っていた。
…けど、事態は思っていたよりも深刻だったのよ」
ガラテアは右掌を上に向け、そこにとある映像を映し出す。
「この者こそ、ゼットン君の魂に影響を与えている男」
「!」
それは先ほどガラテアが拾った紫色の泡より取り出した映像を、そのまま映したものであった。
「あなたには、これが誰だか分かる?」
「いいえ。けれど、この鎧は…」
かつてゼットン青年も身に付けた【アーマードダークネス】。それを身に付けた男は一切の慈悲も容赦もなく、数万もの敵軍勢を虫ケラでも踏み潰すかの如く撃滅していく。
「これは……誰なんですか?」
「…あの鎧の本来の持ち主よ」
「!!」
クレアに思い浮かぶのは一人しかいなかった。
「そんなバカな! あの男は先代の魔王の呪いによって死んだはずです!」
「そう、五百年も前にね。あなたの言う通り、彼は死んでいた……そう、今までは」
「“今までは”?」
「彼等は一体何のためにゼットン君を攫ったと思う? 鎧を身に付けて死なないとはいえ、大した戦力にもならない彼を?」
「それは…」
「…彼等の目的は別にあったのよ。彼等が帝国を再興させるとしても、自分達で治める気は無かった。
ならば、一体誰に治めてもらいたかったのかしら?」
「あ…!」
ここに来て、ようやくクレアもガラテアの言いたいことを理解した。
「彼等は何らかの方法を用い、亡くなったはずのエンペラ一世を甦らせようとしていた。
そのために必要だったのが、ゼットン君の肉体だったのよ」
「それで、奴等は夫に固執していたと…?」
「
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