――アイギアルム・クレア宅――
「う〜…」
時間は午後十時ほど、というところ。眠っていたゼットン青年は目を覚まし、むくりと起き上がる。
「あったま痛ぇ…」
頭に疼痛を感じ、ゼットン青年は不快そうに目を細めるが、今回が初めてではない。
浮遊島より帰還して数ヶ月経つ。当初は体調に変化が無かった彼だが、ここ数日前より、時折頭痛に悩まされたり、睡眠時にうなされたりするようになっていた。家の魔物娘達はそんな夫を心配し、また念入りに調べてくれたが、残念ながら結局その原因は分からずじまいだった。
「ん?」
だがその疑問も、己の胸に滴る見覚えのある白濁液の存在によって、やがて消えてしまった。
「なんじゃこりゃ…」
その出処である顔面が仄かに温かいのに気づいたので触ってみれば、塗りたくられたかの如く白濁液がベットリとくっついている。さらに、鼻腔に吸い込まれた匂いからしてそれが何か、彼は一瞬で把握した。
「ZZZZ……」
「オイ」
元凶が何かを悟ったゼットン青年が後ろを振り返り、そして見下ろすと、そこにあったのは枕ではない。頭をのせていた枕は床に蹴り飛ばされ、代わりに柔らかく生温かい女体、それもしとどに濡れた少女の女陰があった。
「クレア!」
「ZZZZ〜〜!」
怒鳴る夫の声にも反応せず、枕があったはずの場所でだらしなく眠りこけるのは、全裸となったクレアである。彼が頭の下に敷いていたものは、彼女の股であったのだ。
しかも、昨晩愛し合ったため、膣より大量の精液と愛液の混合物が漏れ出し、それが彼の顔にべっとりとくっついていた。恐らくは無意識に彼女の柔らかい尻尾を枕にしていたのだが、どちらかが動いたことで股に顔を埋める破目になったのだろう。
「んにゅう〜〜後五時間……」
「なんちゅう女だ……!」
隣で夫が怒っても、妻は一向に起きる気配が無い。それどころか幸せそうな顔で二本の触角と背中の羽をピコピコと動かしながら、とんでもない寝言を言い出す始末である。
「…もういいや。顔洗お」
腹立たしいが、涎を垂らして眠る妻の起きる気配は無い。その様を見た青年は頭を切り替え、これ以上の追求を諦めた。
「うっわ、ベットベトだよ……頭痛えのにサイアクだわ」
ますますその度合が増す頭痛により額を押さえ、苛立ち気味に呟くが、残念ながら液体の構成成分の半分は自分から絞り出されたものであったため、青年にも非がある。それを考えたくないため、ゼットンはさっさと洗面所に向かったのだった。
「うぅ…」
顔を洗った後、ゼットンはテーブルに用意された朝食のトーストを頬張っていたが、頭痛のせいでまともに味わうことも出来なかった。やがて、痛みの耐えかねた彼は半分になったパンを皿に置くと、目を瞑って額を押さえたのだった。
「旦那様、また頭痛で?」
「あぁ」
テーブルの向かい側に座っていたエリカが心配そうに尋ねるが、ゼットンは力無く答え、それがますます彼女の心配をあおった。
「しかも厄介なことに、段々と頻度が増してきてやがる。性交にも支障が出てるしな、早く治したいよ」
苦痛に歪む顔で青年が愚痴る通り、妻達との性交中にも頭痛は容赦無く襲ってきていた。それに青年は苛立ちを覚えており、そして妻達もまた苛立っている。
そして今でこそ幸せそうに寝ているものの、特に不機嫌だったのはクレアである。なにせ、昨日でちょうど魔王に課された『一ヶ月性交禁止』がようやく解けたので、我慢の限界を迎えていたのだが、肝心の夫の体調が良くない。それでもどうにか夫の肉棒を味わおうとしたが、性交を続けられたのはせいぜい数度で、最後には痛みのあまり結局中折れしてしまったのである。
インキュバスではありえぬ事態にクレアは驚いたが、それ以上に怒った。魔物娘にとってそれは、自分の体が射精するに値せぬということを意味するため、最大級の侮辱に当たるからだ。
しかし、ゼットン青年もわざとやっているわけではなく、別に彼女が嫌いなわけでも、彼女の体で気持ち良くなれないわけでもない。そのため仕方なく弁明したが、結局妻の機嫌はその日治ることは無く、刺々しい空気のまま眠らざるをえなかった。
「そのことなのですが…」
「ん、どうよ?」
「私の見る限り……ここ数日、旦那様の魂に若干の変化が見られます」
「魂?」
「はい」
困惑した顔で自身の見解を語るエリカ。そして、そのような知識の無いゼットン青年には何の事か分からない。
「素人には何のこっちゃ分からん。分かりやすく簡潔に説明してくれ」
「では簡単に申し上げますと、旦那様の魂が何者かの魂の影響を受けているということです。申し上げにくいことですが、その者の力は旦那様の遥か上。
故に『その者が存在している』だけで、
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