どうにか左腕以外の体調を回復させたゼットン青年は、なりゆきから契を結んだ魔王の第五十二王女たるリリムのガラテアの導きにより、交わった翌日に早速王魔界へと赴いた。
二人の帰還は帝国残党からの追手を恐れたのはもちろんだが、それは娘を攫われて不安になっているであろう両親を一刻も早く安心させたいというリリムの願いでもあったのだ。
その頃王魔界ではケイトとナイアの発案により、ガラテア奪還部隊が編成されていたが、肝心の王女の居場所が割れておらず、その事で幹部達が一体どうするかで揉めていた。
しかし、そこへリリムがどうにか自力で戻ってきた事で、その存在意義が消えた奪還部隊は結局何の働きも無いまま解散させられてしまったのだった。
娘が無事であった事に両親は安堵したが、同じく攫われていた男も伴って帰ってきた事は二人を驚かせた。
ただ連れて帰ってくるならそれだけの話だが、問題なのはガラテアとその男が“できていた”事だ。これは新しい家族が魔王夫妻に出来た事を意味し、魔王城は喜びに包まれたのである。
帰還した翌日の朝、魔王夫婦はガラテアとゼットン青年を早速呼び出し、謁見を行った。娘の様子が気になるのはもちろん、新しい婿がどのような男か両親は気になったのだ。
そのため早い話、謁見とは名ばかりで、実質的には義両親への挨拶と言える。そして、五十二番目の娘に出来た男を見た両親は、特に拒否反応を示す事も無く、むしろ好意的な反応を示してくれたため、二人は安心した。
特にゼットンは魔王の姫を犯してしまったという問題から、気に入られなかった場合の末路を想像し、内心相当に怯えていたのであるが、これも杞憂に終わったのだった。
さらにその日の午後。ゼットン青年は魔王夫婦の厚意により、サバトの医療部門で治療を受けさせてもらえる事になった。そこの魔女達の言うところによると、なんと腕の完全再生は可能で、しかも大した代償も無し、という具合である。
そんな治療を受けない道理は無く、青年は喜んで手術室に向かった。
こうして、早速手術台に寝かされた青年に手術担当の魔女達は麻酔を打ち、左肩の切断面から肉を切り取る。それを魔術的調整の施した培養液が入った容器に漬け、怪しげな呪文を皆で斉唱し出す。
そして三十分ほど唱えたところで肉片が成長を始め、さらに一時間後には新たな左腕に変貌を遂げたのである。
最後に、魔女達は左腕を培養液から取り出して切断面にくっつけ、回復魔術でそのまま筋細胞及び神経を融合させ、左腕の再生を完了させたのだった。
「! 治ったのね、良かったわ」
「ゼットーン! 会いたかったよ〜〜!」
「!?」
こうして治療が済み、気疲れを感じたゼットン青年がそのまま滞在用に与えられた部屋に戻ってきたのだが、既に二人先客がいた。その部屋の本来の主たるガラテアと、ゼットンが戻ってきたのを聞いてすぐに駆けつけたクレアである。
手術前、ガラテアには療養のために少しの間逗留するよう進言され、彼もそれに同意した。なにせ、家は洗脳時に自ら破壊してしまっていたので彼には帰る家が無い。
しかもアイギアルムの街は帝国残党の襲来により被害を受けたので、ある意味それに関わっているゼットンがどの面下げて帰れるのか、という状態であったからである。
「う……」
久しぶりに会った妻の顔を見るなり呻き声をあげ、ゼットンはその顔を急速に青ざめさせる。そして、すぐさま部屋の戸を閉めると、そのまま土下座したのだった。
「す、すまねぇ!! 操られていたとはいえ、俺はお前を殺そうとしちまった!!」
罪悪感のあまり、床に這いつくばるゼットン青年。しかし、夫を咎める気などクレアには微塵も無いようで、彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「うぅん……いいよ、別に。お互い生きて帰って来れたんだからさ、もう水に流そうよ」
寛大にもゼットンを許したクレアは、這いつくばる夫に近づくと、優しく抱きしめた。
この様を見れば分かる通り、彼に殺されかけた事などクレアは恨んではいない。彼本人の意思でないのは承知していたし、そもそも街を氷漬けにしたのはグローザムである。
家を破壊したのだけは残念であるが、また建てれば良い事だし、何より幸い犠牲者が出なかったのは幸運だろう。
「ただ、一つだけ約束してね。あぁいう道具頼りの安易なパワーアップはしちゃダメ。OK?」
強くなる事に早道は無い、とクレアは考えていた。強くなる方法を模索する事自体は否定しないが、あの鎧はそれと違う。
確かにゼットン青年は手の付けられない強さで暴れ回ったが、所詮はあの鎧の力の産物であって、彼はその乗り物だったにすぎない。
とはいえ、己の意思で身に付けた事でないのは分かっている。
しかし帝国残党の暗躍が無くとも、暗黒
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