「くたばれ!!」
槍を大上段にかまえ、ゼットンはメフィラスに打ちかかった。
『……』
案の定、振り下ろされる槍を受ける事無く魔術師は煙の如く掻き消えると、青年の少し後ろの位置に現れる。
「バレバレの手を使いやがって!」
そのように初撃は躱されたものの、青年の反応は早かった。振り向きもせず、すぐさま魔術師目がけて双刃槍の後端より赤黒き閃光を放つ。
『フッ……』
しかし、メフィラスにとってもこれは予想通り。
魔術師は嘲笑を浮かべ、それを両掌より放つ青白き雷光で相殺、貫通して黒き騎士の全身に浴びせかける。
「ぐぅぅぅぅッッ……!!」
「ゼットン君!」
大電力の雷撃を浴びせられ、苦悶の声をあげる青年をガラテアは助けに行こうとするが、すぐに膨大な電量に気づいて躊躇してしまう。見た目こそ鎧の加護でこの程度で済んでいるものの、実際は大抵の生物を一瞬で蒸発させる程だったのだ。
故に魔術の使えぬリリムでは、助けに入ったところで余計な犠牲が増えるだけであった。
そして、助けに入れぬ彼女を魔術師は満足気に眺めると共に、徐々に電撃を強め、この騎士見習いの青年の動きを封じていた。
『はっはっはっは……!! 自我を保ちながらも、これだけ鎧の力を引き出す事は褒めて差し上げましょう!
しかし、いくら使う道具が優れていようと、君の実力自体は二流止まり!! このメフィラス・マイラクリオン相手には力不足も甚だ――』
「ぬぅおぁりゃああぁぁぁぁっっ!!!!」
『むっ!? なっ、何っ!?』
苦悶の声をあげていた青年だが、やがて全身より魔力を爆炎の如く噴出させる事で電撃を防ぐ。さらには穂先より再び光線を照射、メフィラスの胴体に叩きつけた。
『が、ぐうぅああああわぁぁぁぁっっ!!??』
思わぬ反撃を受け、驚愕するメフィラス。つい先程の余裕はどこへやら、強烈なダメージにより嘘偽りの無い本物の悲鳴をあげながら吹っ飛ぶ。
『ぐっ…! お、思ったよりは、やりますねぇ…!』
ついに光線が胴体を貫通し、千切れかけながら城壁に叩きつけられる。だが、魔術師はドス黒い血を撒き散らし、肉の潰れるような奇怪な音を全身よりさせつつ、巨大な空隙をローブごと再生させて立ち上がった。
しかし、被弾にしろ再生にしろ無痛で行えるわけではないようで、その声はくぐもったものとなっていた。
戦闘力に劣る分身を闘わせた先日と違い、今回は本体が出向いていたのだが、それが裏目に出たのである。
「へっ、さすがは親玉。さっきの鉄屑とデクの坊みたいにゃいかねぇか!!」
『フッフッ、クク! 雑魚の分際で頑張るじゃぁないですか、ゼットン君!!』
目深に被ったフードに隠れて見えないながらも狂気じみた笑みを浮かべ、魔術師は先程を上回る大電力の雷撃を青年に浴びせかける。そして、対する青年もまた持ちうる限りの攻撃手段でそれに応えた。
(お願い…負けないで!)
目の前で繰り広げられる光景を、ガラテアは固唾を呑んで見守っている。魔力がほとんど無いため、ただ見ているだけしか出来ないのがもどかしいが、それでも彼の勝利を祈る事は出来ると彼女は考えた。
そのため、リリムは今彼に勝利を導く事が出来るであろう存在全てに対し、心から祈った。
「うぉらぁぁぁぁッッ!!」
お互い強力な攻撃手段と防御手段が存在するため、闘いはかなり不毛なものだった。
漆黒の騎士と漆黒の魔術師の間には既に二百発近い光線と雷撃が飛び交い、致命傷を防御し、あるいは回復する一進一退の攻防が続く。
そして、騎士は後ろに控える衰弱した魔姫を攻撃から庇い、その一切をある時は槍捌きで、またある時はバリアで防ぎ、被害の及ばぬよう遮断していた。
しかし場所が場所なので逃げようがなく、さらには青年の方には庇わねばならぬ対象がいるため、明らかに彼の方が不利であった。
「……!?」
「ゼットン君!?」
『残念ながら、ここまでのようですね』
だが悲しい事に、強化されても尚差があった地力の差がここで出てしまった。一進一退に見えたこの闘いだが、そう思っていたのは青年だけで、実際は違っていたのだ。
「ち、力が…!?」
まだ大魔術を連発しても余裕のある魔術師に対し、ゼットン青年は疲労の色が濃く、ついに膝をついた。
そんな哀れな若者を、メフィラスは冷徹に見つめている。
『とはいえ、この私相手にここまで粘れた事については称賛せねばなりますまい。正直鎧の助けがあっても、君がここまでやれたのは意外でしたからねぇ』
いくら適性と耐性があると言えど、青年が纏うのは最強最悪の呪物『アーマードダークネス』であり、彼の力量からすれば到底扱いきれる代物ではない。
にもかかわらず、帝国残党の首魁メフィラスとここまで張り合えたの
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