「消えた……奴等の魔術は、バフォメットの儂でも分からん事が多いのう」
不可思議な術を使い、消え去ったデスレムとグローザム。
ケイトは彼等を取り逃さぬよう、空間転移系の魔術を無効化していたのだが、見事にすり抜けられてしまった。
「さ〜て、あの鉄屑と木偶の坊が消えた以上、後はアンタ一人なんだけど?」
空からふわりと降り立ったクレアは、冷徹な眼でメフィラスを見据えた。
病み上がりの身で大技を繰り出したために体力は相当消耗しているが、夫を嬲った一味を全員叩きのめすまで怒りは収まらず、戦意が衰える事は無い。
『まさかここまでやるとは思いませんでしたよ、お嬢さん。あの二人にあそこまでの怪我を負わせるとはね』
仲間二人に重傷を負わせて撤退せしめた魔物娘を、メフィラスは素直に称賛した。不敵にも、仲間があれだけやられたにもかかわらず、何故かその態度には余裕が漂っている。
「一体お前達は何をしようとしておるのじゃ? 体を改造し、人ならざるものになって生き延びてまで、一体何を望む」
『………………』
クレア以外の面々も、グローザムが頭だけになりながらも喋っていたのを見た事で、ようやく彼等が既に人をやめている事に気づいたのだった。
故にケイトは問うたのだが、饒舌なメフィラスもそれについては沈黙した。
「…復讐か?」
ケイトが思い当たる事はそれ位しかない。なにせ、世界制覇までもう少しというところで先代の魔王率いる魔王軍が彼等の前に立ちはだかり、主君と配下の大多数を死に追いやっている。
そのせいでエンペラ帝国は崩壊の一途を辿り、超大国からただの大国まで転落した。
そしてその数十年後、皇帝の後を追うように死去した前魔王の後継者である現魔王率いる新しい魔王軍と戦争になり、弱体化していた帝国軍は激戦の末に敗北。魔王軍は残った帝国軍25万を全て捕虜とし、帝国はついに滅亡した。
以上がエンペラ帝国滅亡までの顛末だが、その最後の残党である彼等はその恨みを忘れていない。
その抱き続けた恨みの深さたるや、最早想像出来る程度ではあるまい。
『…まぁ“復讐”という点についてはその通りです』
「…それだけではないじゃろう」
『なぁに、今は知らずとも、いずれ明らかになります』
メフィラスはそれ以上明らかにする気は無かった。
『そのためにはゼットン君が必要です。もっとも、より正確に申し上げるなら、ゼットン君という“人物”でなく“肉体”ですがね』
そう呟いて、メフィラスはくつくつと笑いを漏らす。
「彼はインキュバスじゃ。お前達のような異形でこそないが、既に普通の人間の肉体ではない」
『凡百の魔術師や勇者ならばともかく、ありとあらゆる魔術を極めたこのメフィラスにとって、それは些細な問題でしかありません。
インキュバスから元の人間に戻す技術など、既に開発済みなのですよ』
「なんじゃと!?」
この発言に皆は驚いた。もし真実ならば、魔物の優位性は大きく揺るがされる事になる。
『まぁ、我々以外の連中にそれを提供する気はありませんがね。魔物が我々にとって邪魔であるのと同じく、神々とその使徒もまた非常に邪魔であるのです』
「…難儀じゃの。神と魔を同時に敵にまわすのは」
『敵?…何か勘違いしていらっしゃる御様子。そもそも、我々が行なっているのは、あくまで“害獣駆除”の一環ですよ。
デスレムもグローザムも、害獣に襲われるという“事故”によって負傷してしまいました』
「!…成程、そもそも儂らを敵とは見なしておらぬということか。犬に噛まれたから殴り返したところで、それを戦闘とは言わんものな」
かつてのエンペラ帝国において『知的種族』と認められていたのは人間のみである。それ以外の知的種族であるエルフ、ドワーフなどの亜人種、魔物などは全て『動物』として十把一からげにされていた。
帝国の残党であるメフィラス達の認識は当時から変わっておらず、よって彼女等を対等な存在として扱う気はさらさら無い。
動物に襲われるのはあくまで“事故”であって、例えこちらが反撃しても“戦闘”とは呼ばないのである。
彼等にとって、戦闘とはあくまで人間同士で行われる行為なのだ。故に魔王軍という『動物の大群』が押し寄せても、“敵”とは見なされない。
例え、それがどんなに強大な存在であってもだ。
「そんな事はどうでもいいよぉ」
「ゼットンを元に戻してもらおうか!」
黙って話を聞いていたクレアとミレーユだが、いい加減話が続くのにうんざりして、前に進み出た。
「ゼットンを元に戻せば」
「今なら3/5殺しで済ませてやる!」
クレアは両爪を突き合わせ、ミレーユは両拳をボキボキと鳴らした。
『元に戻す? それは無理な御相談です。そうでしょう、ゼットン君?』
『オ
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