-神奈川県 椿ライン-
ギャアアアアアアアァァァァ!!
ヴォォオオン!! ヴォォォォォオオオン!!
ウォン ウォン プシュー!!
ギャアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!
-椿ライン 山頂-
「ふぃ〜、こんなもんかねー、疲れたし、もう帰るか〜」
――斉藤 瞬は愛車、FDのボンネットに腰をかけながら呟いた。
「しっかしまぁ、なんで魔物娘が乗る車はあんなに速ぇのかねぇ…まあ勝てねぇわけじゃねーから別にいいけどさ」
魔物娘と人類が共存するようになった世界――
魔物娘が魔界から人間界に現れるようになって3年
最初の頃は大きな騒ぎとなったものの一年半もたった頃にはほとんど落ち着いていった
魔物娘達は着々とビジネスや政治にも絡んでいき
最近では日本に欠かせない政治家や大企業の経営者となった魔物娘も出てきたのだ
今では魔物娘がいる世界が当たり前になっていた
それは走り屋の世界でも同じだった
最初の頃はちらほらとギャラリーに数人混じっている程度だったが
今では並みの走り屋では敵わないような魔物娘ばかりとなった
魔物娘が持つ特殊な感性からか
あるいは見た目ではわからない強靭な肉体からか
どちらにせよ 魔物娘の速さは圧倒的だった
その速さに挑もうとする走り屋も絶えなかった
だが勝てるものはごく少数の一握りだけだった
瞬はその一握りの中の1人だった
愛車のFDは長年乗り続けており
もともと載っていた純正のツインターボはセカンダリーが不調で動かなくなってしまい
直すのは面倒ということで今はシングルターボを載せている
最初はその癖のある挙動に戸惑ったものの
走り込みを重ねるごとに着々と慣れていき
今では椿ラインの走り屋でも上位を争うほどの腕の持ち主となった――
「ふわぁ‥ぁぁ、ねみ〜、さっさと帰って寝よ」
瞬は欠伸をしながらFDの運転席に乗り込んだ
そして、瞬のFDは椿の道路へと走り出したのだった
その後ろを間隔をあけてついていく怪しい車がいることも知らずに―
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さすがに朝方なだけあって対向車もこねぇなー」
日の出によって青黒く染まった空を見上げながら瞬は言った
キャアアアアァァァ!
椿ラインの二つ目のヘアピンを抜けたところで、瞬は後方から指すヘッドライトの存在に気づいた
「ん?」
そのヘッドライトは瞬のFDにべったりと張り付いていた
「煽ってきやがるな…、あのヘッドライトの感じはリトラクタブル…まさかFDか!」
瞬はいつも自分のFDのヘッドライトを嫌というほど見ているため
相手がFDだと気づくまでにそう時間はかからなかった
「煽ってくるなら、そういう意味でとっていいって事だよな!」
プシュゥ!! ウォォォォオオオン!!
瞬のFDがアフターファイヤーを吹きながら豪快に加速する
後ろのFDもそれに答えるように加速を開始する
「ちゃんと張り合えよ!途中で消えたら拍子抜けだからな!!」
瞬はピーキーなシングルターボをものともせず
逆にその特性を生かしコーナーを吹っ飛ぶように曲がっていく
さらにシングルゆえのターボラグを一切感じさせない豪快かつ繊細な走りが持ち味だった
だが、そんな瞬を嘲笑うかのように
謎のFDはべったりと瞬のFDに張り付いてくるのだ
椿ライン独特の若干うねった連続S字を滑らかに抜けてゆく
しかも、まるで瞬のFDと同調するかのように
同じラインを同じように抜けてくるのだ
(なんなんだ…こいつ)
後ろをべったりと張り付くFDに瞬は動揺を隠せなかった
「俺のラインにぴったりあわせてきやがる…こんな芸当ができるのは、もしかしなくても魔物娘だろうな…!」
瞬は後ろのFDが魔物娘だろうと悟った
人間の走り屋でもうまい走り屋ならばここまでの芸当やる者はいるだろう
だが瞬は椿ラインを長年走っていてFDに乗っている人間の走り屋でここまでできる者は見たことが無かった
「まあいい…相手が魔物娘だろうが負けるわけにはいかねぇな!相手がFDならなおさらな!!」
瞬はアクセルを踏む足に力を入れた
シングルならではのドッカンでリアが流れる
そのまま流れるようにコーナーに吸い込まれる瞬のFD
後ろのFDも同じラインでコーナーに突っ込む
だがこのポジションは長くは続かなかった
三つ目のヘアピンの突っ込みで瞬はプレッシャーで
ブレーキのタイミングが遅れてしまい
大きなアンダーを出してしまった
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