『豪華客船タイタンネック』
最先端の魔法と最大限の魔力を行使した船であった
見上げるほどに大きい船であった
豪華な飾り、素晴らしい娯楽、美味しい料理、etc・・・
それらがすべてそろった素晴らしい船であった
誰もが乗りたいそんな船であった
そんな船に今日、私は乗る
誰もがうらやむ船員になれたのだが私の心は晴れなかった
理由は一つ、好きな彼を連れていけないからだ
彼は余り良い家柄の育ちではない
それを理由に親からはもう会うなとか言われている
噂では彼は変なゴロツキに喧嘩をいきなり吹っ掛けられたり
何もしていないのに犯罪者扱いされて捕まりそうになったりしているらしい
それがとても悲しくて、見ていられなくて
私のせいでそうなってしまっているのなら
もう会わないように徹底的に嫌われてしまおうと
彼にひどいことを言ってしまった
言ってそのまま走って帰ってしまった
それっきり彼とは会っていない、会わないと心から誓った
しかし、もう会わないと決めたのに彼に会いたいという思いだけが募る毎日
彼のことを考えると眠れず、食事ものどを通らずに寝室に籠りっぱなしで
自慢の金髪はボロボロになり、目に深いクマが出来あがっていた
やせ衰えていく私を両親は見越したのか
今回の船にのって気分転換でも図ろうとしていたのだろう
だが浅はかである、こんな船に乗ったところで
人生がガラッと変わる訳ないだろう
そう思っていた
出港2日目の夜のことである
結論から言おう この船は沈んだ
原因は氷山に船底を削られたことによる浸水
最大限の魔力、最先端の魔法とは何だったのか
しかもよりによってこんな寒い、魔物達のはびこる魔界の近くでだ
聞こえたのは阿鼻叫喚と俺を助けろ私を助けろの大合唱
醜いことこの上なかった
奴らの必死の命乞いを知ってか知らずか慈悲もなく沈んで行く船
私は用意された救命用のライフジャケット1枚だけを持たされただけであった
小さいころから健康のための水泳とかやっていたけれども
どうあがいてもこれは絶望的な状況であった
どうあがいても絶望だけれども頑張って生き延びようとした
彼に一言ごめんなさいと言いたくて、大好きだよと言いたくて
覚悟を決め、周りが魔物に襲われている中、冷たい海に身を浮かべた
どうしようもなく寒かった、冷たかった、けれども泳いだ
泳いで泳いで泳いで・・・
神様はそんな私を救ってくれたのか、私はどこかの陸地につくことができた
凍えて疲れた体に鞭打ち、海から這って上がった先に
ポケットに入れてあるライターとそこいらの木々で
何とか暖をとれることを願い周りを見渡すがあるのは氷と小石ばかり
万事休すかと半ばあきらめかけたその時
奇妙な寝袋のようなものと運命的な出会いを果たした
アザラシの毛皮のような寝袋
見るからに暖かそうでそしてなにより心地よさそうであった
有無を言わさず濡れた服を着たままそこに入った
半身しか入らなかったが入った瞬間
全身を暖かな柔らかい毛布に包まれたような
疲れた体をいたわってくれるかのような安堵感を感じ、瞼を下した
朝、起きて私は異常なほどの熱さを感じる
何か異常があるのかわからない、けれども熱かった
たまらず着ていた服を脱ぎ始める、けれども寝袋はなぜか脱がなかった
着ていた服を全部脱ぎ寝袋のようなものだけをまとう
程よい暖かさが私を包み込む
きっと防寒魔法でもかけてあるのだろう
現在私は下半身だけを突っ込んでいる状態なので半裸である
普段なら恥ずかしがってそんな恰好など出来たもんじゃないが
周りに人がいないせいか羞恥心はわいてこなかった
いまさらになって寝袋を確認すると
どうやらアザラシの半身部分をイメージしたような寝袋らしい
アザラシの尾びれのようなものがついていてとても可愛らしいデザインだ
とここで一つ重要な問題に気付く、食料面の問題だ
今ココに急ぎでポケットに突っ込んだ乾パンを1つだけ持っているが
これだけで助けが来るまでの飢えをしのげるとは到底思えない
それどころか助けが来るのかどうかすら危うい
だが絶望はしなかった
この寝袋を着ていると何でもできる気がする
考えたのではなくそう感じているのである
そう、これと一緒なら私は・・・
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船が沈んだという話を聞いたのは出港から1週間たった時のことであった
彼女に大嫌いだと言われて、でもどうしても諦めきれなくて
彼女が帰ってきたら思いを伝えたくて待ちに待った
だがしかし来たのは彼女ではなく残酷な知らせであった
嘘だろうと、彼女はきっとどこか遠いところで幸せに暮らしている
帰ってこないのはそうであるからだと、笑えないジョークだろとそう思った
そんな半ば放心状態になっていたとき、
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