「むぅ〜…むむむ〜…」
ここは、とある屋敷の一室。
四方の壁には本を収めるための棚が隙間無く設置されており、その中の本もビッシリと置かれている。
それだけでは足りないのか、床には分厚い本が山のように積み立てられ、あるいは塔のようになっているものもあった。
そこから察するに、ここは書庫なのだろう。
部屋としては狭いが、本を全て処分でもすれば結構な広さになりそうだ。
尤も、この声の主がそのことを許す筈も無いが。
「ダメじゃ…よい資料が見つからぬ…」
バフッという本を閉じる音と同時に溜息が聞こえた。
声の主は持っていた本を近くの山の天辺に置き、考える仕草をする。
「しかし、ここにある本はあらかた読んだしの…図書館に行けばあるいは…しかしここに無いというのに街の図書館にあるとは思えぬし…」
ブツブツと何かを言っているが、そのたびに『ああではない』『こうではない』と否定的な言葉が続く。
一体なにを考えているのだろうか。
先程声の主が本の山の山頂に置いた本には、『輝きの街・アリーテの歴史』と書いてある。
アリーテとは、この土地にある街の名前…地元の歴史について調べているらしい。
だが欲しい情報は無かったようだ。
声の主は、またしばらくブツブツ呟くと、ガックリと項垂れてしまった。
『フロリスさま〜、エミィさまがお見えになりました〜』
突然、ノックの音と共にそんな声がドアの向こうから聞こえてきた。
幼い子どもの声だ。
その声に、声の主―――フロリス・ゴートレットは項垂れていた頭を持ち上げ、ドアへと視線を向ける。
「よい、通せ」
その言葉から一拍置いて、部屋のドアが開かれた。
最初に部屋には入って来たのは、フロリスと同じくらいの身長をした少女。
だが、その頭に被る帽子のおかげで幾分か高く見える。
帽子の形としては、円錐の形をしたもの。
イメージで言うならば、魔女が被るアレだ。
そう、彼女は魔女なのだ。
その魔女の後から一人、全身に黒いローブを纏ってフードを目深に被った女性が入ってきた。
「おぉ、よく来たな、エミィ」
「ふん…一体なんのようだ?大したようで無いのなら早々に帰りたいのだがな」
会話をしながら、黒いローブを着た女性―――エミィはフードを外す。
そこから出てきた顔は美女のもの。
長い金色の髪を後頭部にて花形の髪留めで抑え、肌はあまり日に当たっていないのか、白い。
「まぁそういうな、同期のよしみじゃろ」
「何年前の話をしている…それはそうと、なんだ先ほどの定例会議は。町長とあろう者が半ば上の空だったでは無いか。というか寝ていただろう」
少し怒気を含めた声で、エミィはフロリスを叱咤する。
だが当のフロリスはというと、たいして気にかける様子は無い。
まるで説教に慣れた子どものように、唇の隙間からちょっとだけ犬歯を覗かせ、笑う。
「定例会議など、ワシが居なくとも進むじゃろ」
「そういうわけにもいくまい。1ヶ月に1度の、予算や施設の建設、人口、人間禁止区域、魔物娘禁止区域…それらについての話をする会議だ。町長のお前がいなければ話にならん」
「そうは言ってもの…元々考古学者のワシからすれば、会話よりも執筆を優先してしまうんじゃ。今回の会議だって話したいことは紙に書いて各人の手元に置いておいたし、誰も否定意見など言わぬからワシ座ってるだけじゃったし…あと途中からなんか分からん黒い変なのに追いかけられてたし…」
「それは途中から夢に走ったと解釈して良いんだな!?」
エミィは呆れ顔で溜息を吐きながら、やれやれと肩を落とす。
こんなでも町長が出来ているのだから、人望及び能力はあるのだろうが…。
「それで、私を呼んだのは何故だ?」
「おお、そうじゃな。実は頼みたい事があっての…」
「…例の水晶少年か?」
ローブの中で腕を組み、少し目を細めながらエミィは視線の先にいるフロリスを見た。
フロリスは、笑っている。
「ほぉ、ご明察じゃ。さすがはエミィじゃな」
「世辞など良い…少年の事ならば一部では話題の種だ。夜型の私でも度々話を聞くほどのな。我が屋敷のメイド達も話をしているのが窺える」
「ほぅほぅ…まぁ話題にもなるか、古代遺跡から少年が発掘されたなど、話題に上らんわけが無い」
「それで、その少年がどうしたのだ?」
「うむ…あの者が何者か調べたいのじゃ」
フロリスはその場から立ちあがり、本の山から離れてエミィの足元へと移動する。
「そんなもの、本人に聞けば良いだろう」
「生憎、彼には自分と知識以外の記憶が欠如しておる。その自分の情報と言うのも、己の名前のみよ」
「…では、どうしようと言うのだ」
「…さてなぁ?」
「おい」
「まぁ、待て。彼はこの土地の遺跡で見つかった。木こりが偶然見つけねば、発見することの出来なかった遺跡じゃ」
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
12]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録