リエルにチョーカーをはめてから、一週間が経過した――らしい。断言はできない。
魔界では昼夜で明度が逆転していて、僕の日数感覚はいまいちハッキリとしていないからだ。
……リエルとずっと交わっていたせいでもあるんだろうけど。
サキュバスは男との交わりによって魔力を溜められる――らしい。
また無責任な言い方になったけど、これはリエルを見ていると間違いないように感じる。
そしてリエルには、その魔力を使ってやるべきことがあるようだ。
「そうのんびりと奴隷になってるわけにはいかないのよね」
『のんびりと奴隷になってる』って、凄い表現だよね……
「この異界の国を、元の『大きな世界』へ送り返してあげないとね」
「国を――送り返す?」
大きなスケールの話題に戸惑う。
そういえば、ここは『大きな世界に従属した、小さな世界』だったんだっけ。
「この異界にある人間の国は、元々は『大きな世界』にあったのよ。
そろそろ……って時に突然消えちゃったから、その地域の魔物娘たちは凄くおかんむり。
もう既に交易ルートも作られていたから、周りの地域も不便を強いられているわ」
何が「そろそろ……」だったんだろうか……まあわかるけど。
「お母様も憂慮して、魔王軍の魔法研究機関であるサバトに調査させたわ。
その結果、魔物娘に敵対する主神という神が創った、新しい異界と国を発見したのよ」
要するに、新しい世界を創って、そこへ国を丸ごと放り込んだわけかな?
敵対する神様だの、世界を創るだの、国を放り込むだの、本当にスケールが大きい……
「消えた国の周辺に居た魔物娘たちには、主神の支配するこの異界へと渡る力は無かった。
けれど、人間の居ない野原に放っておくのはかわいそう。
だから、心優しいお母様はリリムの一人に、異界へ彼女らを案内するように命じたのよ」
「そのリリムが、リエル?」
リエルはうなずいた。
「だから、この世界の大将は私じゃない――ここを人間は誤解しているんだけどね。
この国の勇者を狙っていた、サラマンダーっていう身に炎を宿したトカゲの魔物娘よ。
司と一緒の時は楽しんでいたみたいだけど、今もあのキャンプに住んでいるわ」
あの城は本当にひどい所だったのがわかった――他に勇者がいたなんて話は聞いてない!
その勇者さんのことも有効活用できずに、サラマンダーに捕まえられちゃったんだろう……
『楽しんでいた』って単語はスルーしよう。
「まあ、一回済んだらまた楽しまないといけないんだけどね」
って、結局交わるんじゃないか……いいけど。
それからは、交わり半分・儀式半分という生活が始まった。
リエルは一日の半分を儀式に使い、その間は岩山の上の方に籠(こ)もっている。
儀式自体には手伝えることは何もない。僕の一日の半分は空くことになった。
そのような生活が、一月ばかり続いた。
僕の剣と狼の爪が打ち合う。音が鳴らされる。
その爪と競り合っているのは、農具運びの時に貰ったあの剣(つるぎ)――
僕の魔力を込めた魔界銀の剣を手にして、その挑戦を現実のものとして成り立たせていた。
もちろん、向き合った『魔物』は、ゲームのような恐ろしい姿形をしていない。
その凛々しい姿をしたワーウルフという魔物に対して、僕の全ての知性は、
「やはり、匂いでわかるんだな!」という結論を出し――この剣戟(けんげき)へと繋がる。
今までの人生で見たことのなかった、広く明るい草原や深く暗い森。
アスファルトどころか砂利の整備すらない道を踏みしめ、剣を振るう。
この世界を支配しつつある、
『沼地の島の岩山に棲む、リエルという極めて強力なサキュバス』を、
僕が本当の意味で支配できるようになるために。
戦いは負けた、と言うべきだ。
僕と一人のワーウルフが打ち合っている間に、他のワーウルフに木箱を開けられてしまった。
魔界豚の燻製(くんせい)を奪い、略奪者は森の奥へと姿を消していく。
僕は、リエルを置いて帰るつもりはない。
この世界で生活していく力を付けるためにも、あの物資輸送を単独でやってみたのだ。
流石にいきなり一人で外へ出る自信はなかったけど、こちらの世界の本を読んでいたら、
「魔物娘は魔物娘の夫は襲わない」という一文が目に入ったのだ。
……しかしどうも、自分一人や家族の分程度の食料品を行商人からかっぱらうことは、
魔物娘の常識からすると『襲う』うちには入らないらしい。
だいたい毎回奪われる。相手は複数、一人と向き合ったら手押し車は無防備になるわけで……
まあ全てを奪われるわけではないし、リエルの話では彼女たちは重要な戦力であるらしい。
天使ならぬ狼の取り分ということで、ある程度は割り切るようにしている。
僕の目的地は、以前のとは違う大きな町だ。件(くだん)の村は既に『
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