とある山の中にある廃神社に少女が何をするでもなくボーっと空を眺めていた。
少女は麓にある村の者で齢は10ほどで簡素な着物を着ており、髪を後ろで束ねているのが特徴の少女である。少女は引っ込み思案な性格もあり村の子供達と仲良くなれず日々心苦しい思いをしていた。少女はよくこの廃神社に来ては何をするでもなく一日をボーっと過ごすのだ。この静かな時間が少女は好きだった。気がつけば、この廃神社で一日を過ごすのが当たり前になるほどである。今日も今日とて畑仕事を手伝った後にこの廃神社までやってきてボーっと過ごしていたのだ。
しかし今日は空が暗い雲に覆われており、今にも雨が降ってきそうな天気だった。少女としては別に雨が降ってもかまわないと思っているらしく変わらず廃神社の縁側に腰掛け空を眺め続けている。
しばらくすると雨が降り出しさらに雷も鳴りだす悪天候へと変わってしまった。少女は雷の音にビクリと体を震わし、少し困ったような表情を浮かべる。
「どうしよう…雷様が怒ってる」
少女は雷が苦手だった。突然光っては轟音を轟かせる雷がとても怖く、特に母や父に雷様は怒ると悪い子のヘソを取りにやってくるらしいという話を聞いてからは余計に雷は怖いものと認識し苦手となった。
とにかく雨が止むのを待つべく廃神社で過ごす少女。
「お願い雷様お怒りをお静めください。ちゃんと良い子で過ごしてます。母様の言うことも聞いてます。父様の畑仕事も手伝ってます。だからお願いですお怒りをお静めください」
雷が怖い少女は一生懸命両手を合わせお祈りの言葉を紡ぐ。すると突然今までとは比べ物にならないほど轟音が鳴り、目の前が突然真っ白に染まる。少女は思わず腕で視界を守り身をちぢこませる。しばらくすると目の前に誰かがいる気配を感じ、恐る恐る腕を視界から外し、その人物を見る。
「おや?人の気配がするゆえ降りてみたら、このように小さな幼子だったとは…」
空色の髪、紫を基調とした乱れた着物、辺りに漂う稲妻、それらは少女がもっとも印象を受けた姿だった。
「かみなり…さま…」
気がつけばぼそりと少女は言葉を漏らしていた。
「うん?ワシは雷様とやらではないぞ。ワシは雷獣と呼ばれる妖怪じゃ」
「らいじゅう…さま…?」
「様付けはよせ。背筋がむず痒くなる」
とむず痒いような顔をする雷獣。
対する少女は目の前の妖怪に怯えていた。
村にも妖怪は来るので妖怪自体は別に怖くはない。
だけれど、雷獣から発せられる小さな稲妻に少女は怯えていたのだ。
ガタガタと震え、今にも泣きだしそうな少女。
その様子に気がついた雷獣は不思議な顔をした後、少女の思いを汲み取り、帯電している稲妻を極力出さないように抑えた。
稲妻を抑えると雷獣は少女に近づく。
びくんと震え怯える少女。
近くまで来ると雷獣は少女の目線に合わせるようにしゃがみこんだ。
「すまぬ。ヌシは雷が苦手だったかぇ?」
そして先ほどより優しげな声で少女に語りかけた。
「いま雷は極力抑えとる。これなら怖くはなかろう」
そう言って微笑んだ。
少女はその笑みに見とれていた。
まだ少し怖いけど、それでもこの雷獣は怖い妖怪ではないと理解することができた。
少女はゆっくりと頷くことで雷獣の言葉に反応する。
「そうか…それはよかった」
満足げに頷く雷獣。
「どれ、こうして会えたのも何かの縁じゃ。ワシと話でもどうじゃ?」
再びこくんと頷く少女。
「よしよし。っとここでは雨が酷い。中にでも入ろうかのぉ」
そう言って廃神社の中に入る雷獣。
少女も慌てて一緒に入っていく。
廃神社というだけあって所々ボロボロになっており、雨漏りや隙間風がひどかった。
「ふむ、さすがに完全には塞ぎ切れんか。まあ仕方あるまい」
そう言って床にどかっと座り込む雷獣。
「そらヌシも座るがよい」
「あっ、はい…」
おずおずと座る少女。
「さて、話をするわけじゃが、ワシらは互いに素性を知らぬ身。まずは自己紹介とゆこうか」
それに対してこくり頷く少女。
「うむ、まずはワシじゃな。さきも言うたがワシは雷獣という妖怪じゃ。名前は無い。ジパングを旅する気ままな妖怪じゃな」
「お名前が無いのですか?」
「うむ。ワシは長き時をジパングを旅して生きた流浪者ゆえ名など持たずに過ごしておっての、こうしてゆるりと人間と会話をするのも久しいのじゃ」
「そうなんですか」
「ほれ、次はヌシの番じゃ」
「は、はい。私はきよこと申します。麓の村で暮らしております」
まだ言葉が震えぎみに紡ぎだされるがそれでも幾分か安心しているのかしっかりと返答をする少女。
「そうかそうか。ヌシはきよこと申すか。もしや清い子であれと授けられたかえ?」
うんうんと頷いた後、名前の由来を確認する雷獣に少女はや
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