どれだけ走り続けたであろうか……もはやそれすらも分からないくらい走り続けた。同時に同じくらいの悲観を続けた。
人間は悲観的な考えを続けると肉体にも精神にも悪影響を与えるもの。体力も精神も限界を超えたことで女戦士は走ることをやめ、歩くことすら放棄して地面に座り込んでしまう。
静けさが漂う、不気味な森に女性の荒い呼吸と嗚咽が響き渡る。
「もう、ヒック……疲れた……足…動かない…ック。 どうせ…助からない……ウッ!?ゴホ!ゴホ!……もういやだ…」
『どうしたの?お姉さん?』
「えっ?」
女戦士以外に人がいないはずの森に声が響き渡る。どこから声が聞こえたのか、必死にあたりを見回すが草木が多い茂っていることもあり、人影が見当たらない。
『ここだよ。お姉さん…クスクス………♪』
「ど、どこですか!どなたか存じませんが助けてください!私、死にたくないんです!」
『???………誰かに襲われてるの?おかしいな?ここでお姉さんみたいに可愛い人を襲うのは私達くらいだと思ってたんだけどな』
「そんなことはありません!ここは危険な魔界の森、そこらじゅう魔物だらけ……まもの………えっ……襲うのは私達って、えっ?じゃあ、私は誰と?」
『危険な森?ここに来る人間って皆同じこと言うんだよね〜、こんなに過ごしやすい場所なのに失礼しちゃうな〜』
女戦士の発言に対してのんびりと憤慨した様子の声が響き渡る。それに対し女戦士はここが魔界の森であることを思い出し、自分が誰と話をしているのかに気づき、顔を徐々に青ざめさせていく。
『ん?お姉さん大丈夫?顔が青いけど、気分でも悪いの?』
「あ、あなた……いや、お前は…魔物なのか?」
『そうだけど?』
相手が魔物、それを理解した瞬間、女戦士の心に戦士としての心がよみがえり己を奮い立たせた。
「くっ!?出て来い!隠れて私を油断させて、闇討ちをしようという魂胆なのだろう!だがその手には乗らないぞ。私は誇り高き神の加護を受けし戦士団の一員!たとえ一兵卒になろうとも、私は魔物には屈しないんだ!」
『えー、別に隠れてるわけじゃないんだけどな…それにお姉さんちょっと勘違いしているよ?』
「私が何を勘違いしているというんだ!」
『闇討ちだとか、油断させてとかの部分だよ。もしかしたらさっき襲うとか言っちゃったからそれで勘違いしちゃったのかな?だったらごめんね』
「騙されんぞ!それが魔物の常套手段だということも知っているのだ!」
『むぅ〜、さっきからひどいな〜。そんなに言うなら姿を見せてあげる。でも移動するの大変なんだからね』
そういった後、女戦士の前方にある茂みから何かが飛び出し、真上にある木の枝に絡みつくのが見えた。それは触手だった。次にその触手を支えに茂みから何かが飛び出してくるのが見えた。最初は触手の塊が飛び出して来たのかと身構えた女戦士だったが、着地した姿を見てそうではない事がわかった。
その姿は少女だったがひと目で魔物であることがわかった。ただしその姿は女戦士が今まで見た魔物と比べかなり異なっていた。人間なら手の部分であろう場所には触手を内包した花が生えていて、下半身には根っこのように何本も触手が生えていた。体の至る所に無数の触手が蠢いていて、うじゅるうじゅると粘液の絡まる音が響き渡っている。触手もよく見てみると1本1本形が異なっていて、そのどれもが相手を悦ばせるために発達したものであることが分かった。
だが女戦士はその姿に共感を持つことは出来ず、逆に嫌悪感を抱いていた。
「な、なんだお前!その気持ちの悪い触手は!?」
「むぅ〜、姿を見せろっていうから見せたのに今度は気持ち悪いだなんて〜お姉さんわがままだよ」
「うっ……それは、その、すまない。……ってそうじゃない!何故私は敵に謝っているんだ!」
「それにさっきから思ってたんだけど、聞いていいお姉さん?」
「な、なんだ唐突に?言っておくが変なことを聞いたらタダでは済まさんぞ」
「別に変なことは聞かないよ。なんでお姉さんはさっきから泣いていたり、怒ったり、青ざめたりしているの?そんな顔をするよりももっと幸せそうに笑ったほうが絶対に似合うのに」
「なっ?!いきなり何を言ってるんだお前は!こんな場所で笑えるわけがないだろうが!」
「でも、この辺に住んでいる人達はけっこう幸せそうに笑っているけど?」
「それはこの辺りの魔物が、だろう?私は人間だぞ」
「あっ、そうか。えへへーすっかり忘れてた」
「………なんだかな、調子の狂うヤツだ」
「あっ、やっと笑った。やっぱ笑顔が一番だよ」
どうやら気がつくと女戦士は笑っていたらしい。そのことに女戦士が気がつくと、ハッとした顔になり、すぐに睨みつけるような険しい顔に戻る。
「私は笑っていないぞ!私が魔物に心を許すはずが無い
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