ブラックハーピーの翼を思わせる艶やかな黒髪とカラステングの髪よりも濃い黒目からも推察できるように、キサラギはジパングの生まれである。
まだ物の道理も分からない程に幼い頃、住んでいた集落が武士崩れが集まった野党に襲われてしまったらしく、当たり前のように戦う術も逃げるだけの体力も持っていなかったキサラギははただ殺されて短い一生を終えかけてしまう所だった。
だが、偶々、もしくは「何か」の意思に導かれたか、立ち上っている黒煙を見て駆けつけた魔王軍の勇者部隊に助けられた。
元々、不祥事で職を追われた野党等が、魔王軍の中でも屈指の実力を誇る勇者部隊に敵うはずもなく、一時間と掛からずに撫で斬りにされたそうだ。
キサラギ以外に息のあった者はおらず、幼い身にして天涯孤独になってしまった彼を不憫に思った勇者部隊の隊長はキサラギを大陸に連れて帰ることに決めた。後で聞けば、他の者も、血塗れであるにも関わらず泣き声一つ上げない気丈な彼を気に入って引き取りたがったらしいが、キサラギの義父は隊長権限を行使したらしい。
彼の家内であったアラクネは旦那がいきなり、周囲の人間とまるで毛色が違う子供と一緒に帰ってきたものだから、「ただいま」のキスをしようとした体勢で固まってしまった。
アラクネの引き攣った唇を見た、幼かったキサラギは逞しい腕の中で大笑いし、船旅の最中、彼がずっと無表情でいた為に心配していた義父は「笑った、ようやく笑った」と大喜びしたそうだ。
アラクネは最初こそ渋っていたが、キサラギに小さな手で足の先を外見に見合わぬ力強く握られた瞬間、それまで並べてていた文句や不満など吹き飛んでしまった。
姓と名は血塗れの服に糸で縫ってあったらしく、ジパングの言語を話せて書けるバフォメットに音を教えて貰ったそうだ。
彼を養子にした勇者部隊の隊長は、剣士部門のランキングで上位者であった上に、本当の父親は剣で生計を立てていたのか、剣術の才能が生まれながらにあったらしいキサラギはたちまち頭角を現した。また、育った環境も彼の才能を開花させるには恵まれていた。
先述したが、勇者部隊は魔王軍の中でも実力者が揃っている。つまり、剣だけではなく、槍や斧、格闘術、弓術に長けた戦士が揃っており、キサラギはそれぞれの分野でトップクラスに君臨する彼等から異なった武器の使いこなし方を教えられ、同時に、異なった武器を持つ相手との戦い方を徹底的に叩き込まれたのだ。
これで強くならない方が嘘である。
キサラギは瞬く間に、同年代の少年等より強くなり、期待を一身に背負っていた新入隊員でも彼に敵う者は少なくなり、十五を越える頃には隊長クラスでも半ば本気にならねば立場が危うくなるほどの実力をキサラギは地道に鍛え上げ、極上に仕上がりつつある『堅』と『柔』が同居する肉体に備え出していた。
しかし、武の才能には恵まれていたキサラギだったが、魔術の才能はからっきしだった。
天二物を与えずとは言ったが、正にそれで、キサラギは十にも満たない子供ですら使える魔術もまともに使えなかった。
キサラギが住まう魔界は当然ながら、良質の魔力が充満しているので、人間界よりも魔術の行使は容易いとされている。なのに、彼がいくら集中して呪文を唱えても、蝋燭の先に火を灯す事すら叶わないのだ。
普段、剣術や格闘の授業でキサラギに一度も勝てない少年達は風系の術で石ころ一つ浮かばせられない彼を「無能」と罵ったものの、当のキサラギは自分が魔術を全く使えない事をさほど気にはしていなかった。
単に遠距離攻撃の手段が一つ減ってしまっただけ、と淡々と現実を受け入れ、自分に残されている武術を更に極めんと稽古に明け暮れた。
キサラギをからかったからではないだろうが、口汚い言葉を石と共にぶつけた少年達はその後、格闘術の授業で組まれた一対多数の試合でキサラギに完膚なきまでに叩きのめされる羽目になった。
キサラギ自身も、二十歳を過ぎた頃に魔王の側近であるバフォメットに教えてもらったのだが、彼が魔術をまるで使えないのはジパング出身である事が大きな原因であるらしかった。
この土地に住む人間は生まれた時から、魂そのものに個人差はあるにしろ、魔術を使用するための回路が構成されている。
だが、ジパング生まれであるキサラギにはその回路が存在しない。正確に言うと、回路の成り立ちは違っており、目には見えないが確かに『存在』している魔力を自分の体内に吸収できたとしても、それを魔術を発動させるエネルギーには変換できないのだ。
実際、成り行きでジパングに戻る事になった時、キサラギは荒れ狂う水の流れを自在に扱えた。ジパングと言う土地に『存在』する魔力とは異なる不可思議な力とは相性が良かったらしい。
十五回目の誕生日を迎えてから一週間ばか
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録