「あ」
「お」
若い頃、コンビを組んでいたキサラギ・サイノメ(賽乃目如月)とカグラ・ムラマサ(斑柾神楽)はお互いに偶然、立ち寄った村の酒場で再会した。
まさか、こんな所で旧友に会えるとは思っていなかった二人は喜びを露にし、まず握手をし、次に抱擁をし合い、そして、離れ際の一瞬、お互いに急所を狙った一撃を繰り出し、カグラは受け止め、キサラギは回避した。
「っっ?!」
これには、酒場にいた客も、お互いの旅の同行者も絶句した。
二人が繰り出した、今の攻撃は明らかに殺気が篭もっていたからだ。どちらも、久しぶりに会った友を躊躇せずに殺そうとした、少なくとも、小さくはない怪我を負わせるつもりだった。
こんな所で殴り合い、いや、下手をすれば、得物を抜いて殺し合いを始める気なんじゃ、とその場にいた、二人に視線を注ぐ全員の頬を冷えた汗が流れ落ちた時だった、キサラギは喉を鳴らして、カグラは豪快に笑いながら今一度、先程よりも暑苦しい抱擁を交し合った。
「ハハハハハハハ、久しぶりだな、おい」
「本当に! お元気でしたか?」
体を離し合った二人が突然に、今の刹那にも満たない本気の攻防が嘘だったかのように笑い出したものだから呆然としてしまう客達だったが、触らぬ神に祟り無しだとばかりに、すぐに目を逸らし、それぞれの会話に戻った。
「最後に会ったのは、ナンバ島の監獄だったな」
「あの時は大変でしたねぇ。
ホムラさんのお姉さんを助ければ良いだけの話だったのに、まさか、王子様を助けに『紅蓮の砂漠(ルベル・ワースティタース)』にまで行かされるとは思いませんでしたもんねぇ」
「正直、あん時ばかりはさすがに、マジで死を覚悟したぜ」
笑いながら、カグラはキサラギの拳を受けた際の衝撃で裂けてしまった掌をヒラヒラと振る。そうして、動きを止めた時は、あれほど痛々しかった掌の傷はまったく残っておらず、血すら消えていた。
「リェフさんは、私達の説得にもまるで耳を貸してくれなかったから、結局、力で押し通るしかなくて・・・・・・
中立にコリナ様が入ってくれなかったら、私達、今頃、『墓荒らし』で国際指名手配を受けてた所でしたよ」
苦笑いを漏らしたキサラギはカグラの拳が掠めて、わずかに抉れた頬から流れる血を指先で拭い去る。
「お久しぶりです、キサラギさん」
「あぁ、ヴィアベルさん。
お元気でしたか?
大変でしょ、毎度、カグラさんの我儘に付き合わされて」
「えぇ、本当に」とカグラの連れであるメデューサのヴィアベルは口許を隠しながら微笑む。
カグラは彼女がキサラギの言葉を否定してくれなかったものだから、若干、傷ついたようだったが、自分が彼女を自分の食欲に任せて振り回しているのは紛う事なき事実でもある為、強気には出られず、わずかに肩を竦めるだけに留めておいた。
ふと、カグラはヴィアベルと軽口を交えながら親しそうに話しているキサラギへ、少し離れた場所から嫉妬と戸惑いが入り混じった炎を灯らせた目を向けているリザードマンとマンティスに気が付いた。
「ふむ」と顎の無精ヒゲを一撫でしたカグラは床を軽く蹴った。
いきなり、キサラギを睨んでいた視界をその長身で覆われた二人は驚いてしまい、数歩ばかり後ずさってしまう。
「なんだ、お嬢さん達、アイツの連れか?」
「は、はいっ」とリザードマン族の戦士・リゼルは首を縦に振った。まだまだ実力不足とは言え、戦士の端くれである、先程の高レベルの攻防で目の前に立つ男の強さは十分に窺えた。
(私たちより遥かに・・・つ、強い)
すると、狼狽ていたリゼルの隣でカグラの顔をじっと見ていたマンティス族の戦士・カンパネロが前に一歩進み出て、右手を彼に向かって伸ばしたのは。
「ん?」
「握手、して、ください。
私、あなた、『蒼い雷(ブラオ・ドンナー)』の、カグラ・ムラマサの、ファン、です」
兎のように真っ白な首筋を真っ赤にし、潤んだ瞳で自分を見上げてきている彼女の言葉に、ピクッと左の眉だけを上げたカグラは照れ臭そうに頬を指先を掻くと、「そら、どうも」とカンパネロの右手を握り締めた。
「ブ、『蒼い雷』!?
世界ランキングの剣士部門八位のカグラ・ムラマサ!?」
「まぁ、そう呼ばれる事もあるか。
でも、俺の本職はあくまで料理人だがな」
「ア、アタシも握手して貰っても良いですか」
「構わんよ」とカグラは、汗ばんだ手を乱暴に拭ったリゼルに右手を差し出す。彼女はカグラの右手を緊張した面持ちで握り返し、掌から直に伝わってくる、その順位に見合った努力を感じ取り、思わず感嘆の息を吐き出してしまった。
「ほぉ、大したもんだな」
「え?」
手を離したカグラが逆に感心したような面持ちになっていたので、リゼルとカンパネロは
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