その日は、体力を完全に回復する為に野営をする事になった。
崖を登るから荷物はなるべく減らした為、テントや寝袋の類は持ってきていなかったのだが、ワーバットも確認できず、いい具合に夜の寒気と雨露を凌げそうな洞穴で一夜を過ごしたカグラさんと私。
岩の陰に人骨を見つけてしまった時には思わず、私はカグラさんの首筋に抱きついてしまった。
しかし、カグラさんは自分の胴体に巻きつけられた私の尾から簡単に抜け出ると、頭蓋骨を拾い上げて、数年前に命を落とした二十代の男性で戦士の類ではなく魔術師だろう、と推察した。また、死因は病気ではなく、右胸を刺された事による失血死。
「恐らくは、ここらに跋扈していた山賊に雇われていたんだろう。
何らかのヘマをしたのか、取り分でモメたのか・・・・・・」
「よよよよ、よく平然と推理できますね」
「慣れてっから」と飄々とした面持ちで返してきたカグラさん。冒険者だから慣れているのか、料理人だから慣れているのか、どっちだろう。
カグラさんは頭蓋骨を岩の陰に戻すと、おもむろに手を合わせた。しばらく迷っていた私も、指と指を組んで鎮魂の祈りを捧げてやる。
その夜の食事はバナナに乾パン、鯵の缶詰、干し肉、ドライフルーツだった。
私は恐かったが洞穴の奥、カグラさんは侵入者を警戒してか、入り口近くの岩に背中を預けて眠りに付いた。洞穴の外には獣が近づけないように火を焚き、魔獣が近づいて来れないよう、刺激の強い薬草を焼いた粉を撒いておいた。
そっと寝返りを打って、岩壁に背中を預けて腰掛けているカグラさんを盗み見れば、既に穏やかな寝息を漏らしていた。
(まだ何分も経ってないのに・・・)
寝付きが良いと言うよりは、緊迫した状況でも体力の回復を優先できるのだろう。元来の性質なのか、いつ命を落としても不思議じゃない冒険生活で自然に備わった癖なのか。
(―――・・・ここは、魔物娘の・・・・・・『本能』に従わなきゃ)
若干、使い方が間違っている気もしたが、カグラさんへの夜這いを決意した私。
そっと、音を立てないよう近づこうとした時だった、カグラさんの肩が揺れ、鋭く重い気迫を叩き付けられてしまう。
「曲刀で首を落とされる」イメージが頭の中にはっきりと浮かぶ。
(や、やばっ)
慌てて、元の位置まで戻ると、気迫は嘘のように霧散した。
何度か深呼吸を繰り返して、恐怖で速まっている心臓を必死に宥める。錯覚だろうが、体内で喧しい鼓動が、体の外にも漏れてしまっている気がした。しかも、薄暗い洞穴の壁で反響して、余計に五月蝿さを増してしまい、カグラさんを起こしてしまうのでは、と心配になってしまう私は胸を痛いくらいに(少し、気持ちよくなってしまうが)押さえる。
(むむむむむ無理、襲おうとしたら、間違いなく・・・・・・)
カグラさんの寝込みを襲えるのは恐らく、いや、間違いなく、ランカーでも限られているだろう。アンブルさんでも難しいかも知れない。もっとも、あの高潔な彼女が寝込みを襲うなんて卑怯な真似をするとは想像しにくいが。
一気に血の気が引いてしまった私はカグラさんを見習って、一刻も早く1%でも多く、体力を回復して明日に備える事に決め、瞼を下ろした。寝ようと決めてしまうと、あれだけ昂ぶっていた頭の蛇達も素直に長い体に入れていた力を抜いて、お互いに重なるようにして眠り出した。
翌朝、芳しい香りに鼻をくすぐられて身体を起こすと、いつの間にやら、身体に毛布代わりにマントがかけられていたらしく、マントは私の肌を滑って行く。
「起きたな」と言う声に、マントを手にしながら視線を向ければ、カグラさんが携帯乾麺をお湯で戻していた。
「あ、あの、これ」
「夜、急に冷え込んで、くしゃみを繰り返していたんで。
すまねぇな、こんな野暮ったい物を被せちまって」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
マントを受け取って畳んだカグラさんは鍋の中身を掻き混ぜていたフォークで洞穴の外を指す。
「出来上がるまでまだ時間がかかるから、顔だけじゃなく体も洗ってきたらどうだ?
昨日は遅かったから体の汚れも落とせなかったしよ」
(わ、私、そんなに臭うのかしら?)
思わず、服の匂いを確かめてしまった私は彼の言葉に甘えて、水浴びに向かった。正直に言えば、覗かれるかも知れないと思ったのだが、すぐに彼が私なんかの裸に興味を持つわけがないわね、と自嘲の笑みが浮かんでしまう。
地熱の影響なのか、池の表面からはうっすらと湯気が立ち上っていた。
着替えを手が届くよう、同時に不埒な輩に盗まれてしまわないよう岩の窪みに置き、私は汗がたっぷりと染み込んでしまっている服を脱ぐ。そうして、尾の先で水温を確かめてから、ゆっくりと浸かる。
「ふあああ
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