一ヵ月、キサラギは道路工事で、レムは喫茶店で地道に働いた。
そうして、二人は中級の馬車と御者を雇えるだけの、それなりにまとまった金で皮袋をギッチギッチに膨らませる事に成功した。
キサラギは見た目からは想像しがたい、ミノタウロスにも肩を並べられる怪力と、持ち前の速い頭の回転で、現場監督から重宝され、仲間からは妬みと尊敬を半々に集めた。
レムは笑顔がモットーの接客にも関わらず、思う通りに笑い顔を作れずに無表情のままで接客をしたのだが、逆にそれが一部の客層に受け、それぞれの仕事を最初の契約どおりに止めるとなった時はかなり惜しまれ、引き止められた。
また、遺跡の調査を依頼してきた王はどこで聞きつけたのか、ただのアルバイトであったキサラギが生きて帰ってきた事を知ったようで、何度か使者を彼の元に寄越して、詳しい話を聞きたがったが、その度に「俺以外の人間は全て死んだ、アレは人間が足を踏み入れていい場所なんかじゃない」と冷ややかな表情で突っ撥ねた。
あまりにキサラギが強固な態度を取るものだから、何かを隠していると踏んだ王は彼を拉致しようと刺客も差し向けたが、ランキング入りこそしていなくても、怪我が治りかけであろうとも30位前後の実力は持っているキサラギに並みの刺客が敵う訳もなく、全て返り討ちにされるのがオチだった。
遺跡の真実を抜きにしても、キサラギの強さは魅力的だったのか、王は自分の近衛兵団に入ってはくれないか、と誘ってきたが、武者修行の最中だからだと丁重に断った。
幸い、見た目はごくごく一般的なゴーレムであるレムの方に王の側近は接触を図らなかったようだが、芸術の神が創ったのかと思ってしまうような「完全」に近い彼女の美貌に、男性客の多くが参ってしまったようで、かなり粉をかけていたらしい。
レムはデートに誘われる度に、「私には既にマスターがおります。申し訳ありません」と物腰こそ柔らかく、それでいて、にべもないほどハッキリと断っていた。
しかし、色好い返事を貰えない上に他の男の物となれば、余計に手に入れてみたくなるのが男のサガと言うものなのか、中には食い下がってくる者もいた。
そうして、他の店員や客に迷惑をかける行為にその者が出た場合、レムの空気圧式マシンガンが火を噴いた。
主であるキサラギに「なるべく、殺すな。殺るなら殺るで足がつかないようにしろ」と言われていたので、ゴム弾に切り替えてはいたが、貫通しないだけに当たれば、かなり痛かった。無数のゴム弾を全身に浴び、アザだらけにされた男達はこれに懲りて、レムにちょっかいを出さなくなった。それでも、三日に一度は変装をして、レムを見に来るのだから、その根性は大したものである。
顔色一つ変えずに迷惑な客を追い出したレムの人気はますます上がっていった。
一ヵ月後、二人はどうにか目標金額を手に入れ、旅の準備を始めた。
テントや寝袋、ランタンなどの旅の装備と食糧で膨らんだ鞄を背負ったキサラギとレムは、小鳥達の囀りを聞きながら森の中を黙々と歩いていた。
馬車で移動しようかとも思ったのだが、一ヶ月の間に金銭感覚が随分とシビアになったレムに万が一が多く起こる旅ですから、倹約できる所は倹約すべきです、と意見され、それもそうだと納得したキサラギは彼女と話し合い、隣の町まで森を抜けるルートで向かう事に決めた。
「ちっと休憩すっか」
「了解です、マスター」
人間としては体力のある方のキサラギだが、平坦ではない道は苔に覆われている上に、太く絡み合っている根を踏みこえながら三時間も歩いていれば疲労も溜まり出していた。
「気持ちのいい場所だな」とアルラウネの蜜を溶かした水を飲んだキサラギは周囲の木々を見回し、穏やかな面持ちで呟いた。
「はい、良質の魔力で満ち溢れています」
「だろうな、ほとんどの木が樹齢百年を超えている。
アルラウネやらドリアードには棲みやすそうな場所なんだろう」
近隣の村に住むの人間が恐れ敬って、特別な祭事の時以外は入って来ない、この深い森を進む自分たちの様子を窺っている視線を四方八方から感じていたキサラギ。
キサラギがぐるっと周囲を見回すと、急いで気配を隠す者もいれば、彼が気付いてくれた事を喜んで投げキッスを送ってくる者もいた。
十年近く、魔物娘の中で暮らし、何百回も交わった末に、魅力(チャーム)に対抗術も展開させないで抵抗できる体質になっていなかったら、目を蕩けさせて彼女達に近づいてしまっていただろう。
苦笑いを漏らし、さりげなく拒むようにヒラヒラと手を振り返すキサラギ。 そんな態度で、ますます彼に興味を持ったらしく、アルラウネは彼に自身の蜜で光る蔦を伸ばしてきたが、素早く立ちはだかったレムはそれを手刀で弾いてしまう。
睨み合うレムとアルラウネの少女
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