「・・・・・・×××様、貴女様の言う通りでしたね、この方は強く、私が持っていない優しい心を持っていらっしゃるようです」
「優しさなら、アンタも持ってるだろうよ」
唐突に、右目だけを静かにゆっくりと開けたキサラギが微笑みながら、そんな事を口にしたので、少女はタオルを握り締めたままで後ろに飛びずさってしまう。
「悪ぃ、悪ぃ、驚かせちまったか?」
未だに力が入らない右腕を体を支えながら起き上がった彼は、机の上に投げてあった増血剤のカプセルを口に含む。そうして、少女が差し出した水に礼を言い、一気に飲み下す。
「・・・・・・私には心はまだありません。
ですので、マスターをあの時、お助けしたのは優しさではなく、主の命を最優先事項に置くプログラムによるものです」
キサラギは絆創膏が貼られた顎を一つ撫でる。
「確かに、そうかもしれねぇ。
だけど、人間が他人に優しくするのも、ある意味、プログラムだよな。
コイツに恩を売っておけば、後々で自分に有利になる、とかそんな打算があって優しくする奴もいれば、単純に『放ってはおけない』って言う理由にもならねぇ理由で世話を焼く奴もいる。
人間だろうが、ゴーレムだろうが、魔物娘だろうが、自分じゃない奴に優しくするのには色んな理由やら事情がある。
だから、俺はアンタの俺に対する行動は『優しさ』と思う」
キサラギの回りくどいような、正鵠を得ているような、今イチはっきりとしない物の言い方に少女は混乱してしまい、形のいい眉を寄せてしまう。
(これが・・・困惑、と言う感情。そして、そこから派生する反応)
「ま、優しさってのは時に相手を傷つけちまうこともあるんだけどな」
「そうなのですか?」
「そうなのさ」と苦笑いを浮かべたキサラギはシャツを羽織る。少女は流れるような動作で近づいてきて、開けたままにされているシャツのボタンを締めようとしたが、彼はそれを無言かつ手を小さく振って制止した。
「別に、俺はアンタにメイド紛いの事をやらせたい訳じゃない。
―――・・・と言うかだな、正直、戸惑っている、俺ァ」
「戸惑い、ですか?」と少女はキサラギの表情をデータに焼き付けつつ、首を傾ける。
「隠しててもしょうがないから正直に言うが、俺はアンタを目覚めさせる気なんて、これっぽっちも無かった」
固い表情のキサラギはそう言って、親指と人差し指の間隔を狭める。
「そんで、これから、アンタをどう扱っていいものか、も迷っている」
「如何様にも。
私はマスターの身の回りのお世話もいたしますし、夜のお供も出来ます。
また、戦闘プログラムも書き込まれておりますし、この身には各種銃火器も積み込んでおります。
弾丸の盾になれ、と命令されれば、喜んで、マスターの盾となります」
「それが困る」とキサラギに言われ、少女は『戸惑って』しまう。
「行動不能になっても、マスターの命を守れるのなら、ゴーレムとしては本望です。
それに、修理はいくらでも効きます」
すると、キサラギはわざとらしく、大きな溜息を漏らした。
「俺はてめぇの命を大事にしねぇ奴とはつるみたくねぇ」
「・・・私に『命』はありません」と少女は表情を翳らせて、顔を俯ける。
「ですが、私がお傍にいるのが不快と言うのでしたら、私は今一度、あの場所に戻ります。
気分を害されてしまうかも知れませんが、一言だけご命令ください、『契約を破棄し、眠りにつけ』と」
「待て待て・・・誰が帰れ、と言った」
少し不機嫌そうに呟いたキサラギは眉間に皺寄せ、少女の手首を掴んだ。彼は少女が、現マスターである自分には暴力を振えないことを知っているので、手首を握る右手には力を入れていなかった。もっとも、胡桃を三つ同時に割れる握力をキサラギは有しているので、力を下手に入れてしまっていたら、いくら彼女の体が特殊合金で作られているとは言え、手首にはくっきりと指の跡が残ってしまっただろう。
「成り行きとは言え、アンタを目覚めさせたのは俺だ。
その上、知らない内に、アンタの主にまでなっちまった」
彼女の手首を離したキサラギは背もたれに体重を預ける。
「素直に言っていいなら、マジで迷惑だ。
かと言って、俺の命を救ってくれたアンタを冷たく扱うのも、俺自身が許せない」
自分でも言い方が少し回りくどすぎるか、と思ったらしく、キサラギは苦笑いを漏らすと腰を上げ、おもむろに包帯が根元までキツく巻かれている指を大きく広げた右手を彼女へと差し出す。
「至らぬ点の方が多いかもしれねぇが、これからよろしく頼む」
「!? では、私はマスターのお側にいてもいいのですか?」
「一つだけ約束してくれ」
「何なりと」
「俺は守るな」
「そ、それは、私の存在意義に反してしまいます
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