「ふぅっ、散々暴れてくれたけれど、これで終わりよっ!」
『ググ…………我ガ、ココマデ……オ、追イ詰メラレヨウトハ…………』
夜の大都会の一角――――ピンクと白を基調としたコスチュームを身に纏う魔法少女アリアが、高層ビルに並ぶほどの大きさがある骸骨姿の鎧武者に、流れ星のような白いビームを豪雨のように打ち付けた。
この攻撃が致命打になったのか、巨大な骸骨鎧武者は目のくぼみの青白い炎を弱々しく明滅させ、骨でできた体のあちらこちらがガラガラと崩れ始めた。
『ダガ…………カクナルウエハ、コノ命を煮トシテデモ…………』
「な、自爆する気!?」
敵の姿がブラックホールのようにねじれていくのを見て、アリアは敵の自爆を警戒して魔法のシールドを張った。
だが、ゆがみは爆発することなく、そのまま空間にぽっかりと空いた穴となり、やがてそこから黒いシルエットの何かが現れた。
「あら……ここは? ふぅん、なんだか変わった世界に召喚されたみたいね。……んふっ
#9829; ちょっと元気はなさそうだけど、人間の香りがたくさんするわ
#9829;」
姿かたちは人間の女性にかなり近いが、肌は青白く、夜空を溶かしたような髪の色に、桃色の瞳が怪しく輝く。
だが何より、側頭部からは禍々しくも艶やかな角と、腰から生えた完璧な美しさの翼、先端がとがった細長い尻尾…………そして人間離れした美貌と、豊かな胸や引き締まったヒップなどの異常なまでに抜群のプロポーションが、その存在が人間ではないことを示していた。
(なんなのこれ…………っ、今まで戦った敵と何かが違う……しかも、見ただけで分かるくらい、強い!)
ひび割れたビルの屋上にふわりと優雅に着地したその魔物を見て、アリアはゴクリと唾をのんだ。
彼女が持っていた魔法の力は、ついさっきまで戦っていた巨大な骸骨武者相手にそのほとんどを叩きつけてしまった。
ならばここは一旦引くのが賢明だが、正義感の強いアリアは目の前の魔物をそう簡単に逃せなかった。
一方、召喚された魔物も、アリアの姿を見るや否や、挑発するように首をかしげ、妖艶な笑みを浮かべた。
「うふ……
#9829; かわいい子、見ぃつけた
#9829; でも、だいぶ疲れてるみたいね。お姉さんが癒してあげようかしら……んふふふ
#9829;」
「っ!! バカにしないでっ!」
先手必勝。
アリアは残った魔力を光の矢に変えて打ち出すために、その場で両手を高く掲げた――――が、掲げた両手に光が集う前に、彼女の足元に仄かに赤く光る魔法陣が現れる。そして、そこから現れた桃色に光る鎖が、アリアの身体に絡みついた。
「やっ……なに、これっ! か、からだがっ、うごかないっ!?」
「大丈夫よ……痛いことなんてしないんだから♪ むしろ、気持ちいこと、教えてアゲル
#9829;」
体に絡みつく鎖は、不思議なことに痛みは全くなく、まるでリボンにくるまれているような不思議な柔らかさすらあったが、足元から指の先に至るまで、一切動けなくなってしまった。
絶望するアリアの前に、魔物が一歩一歩……豊かな胸を揺らしながらゆっくりと近づいてくる。
(助けて………ゆきと)
アリアは自身の完全な敗北を悟り、無意識のうちに最も親しい幼馴染の名前を心の中で叫んだ。
同じころ、都会の中心から少し離れた住宅街に住む男の子、羽丘 雪都(はねおか ゆきと)は、つい先ほどからとめどなく溢れてくる正体不明の不安感に苛まれていた。
「……だめだ、宿題やる気が全然起きないし、ゲームも全然集中できない。ううぅ……なんでこんなに緊張してるんだろう?」
何事もないいつも通りの夜のはずなのに、妙に心臓がどきどきして落ち着かない。
ただ、雪都にはこの嫌な予感に一つだけ心当たりがあった。
(もしかして…………アリアちゃんの身に何か)
大半の一般人は、アリアをはじめとする異能使いの正義の味方の存在や正体を知らないし、彼女たちが日々邪悪な存在と戦っていることは感知できない。彼らは一般人に知られないように、特殊な結界を張って戦うのだ。
けれども雪都は、幼馴染のアリアの正体が魔法少女だということを知っているし、知ったうえでなるべく彼女を心配させないように振る舞ってきた。
もちろん、アリアがとても強い魔法少女だということも、すでに強敵を何体も葬ったことを知っている。
彼女ならどんな敵が出てきても負けない――――そう信じていた。
だが、アリアも命がけで戦っている以上、負ける可能性がないとは言い切れない。
そう考えると、雪都の不安はより一層募っていった。
「…………っ! だめだ……僕はアリアちゃんを信じてあげなきゃいけないのに!」
ますます大きくなる不安な気持ちに
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