※最後まで長く1万字超です。
年の瀬が迫る度に寒さは厳しさを増して行く。
雪こそ降らないものの、吐く息の白さは日々大きく見えるようになり道なりの植物には日中でも霜が降りるようになった。
吹き荒ぶ寒風に首を潜めながら人々は道を歩いていた。
「うー……さぶ……」
かくいう俺――斑鳩 豪もその一人である。
借りたDVDの入ったバッグを背負い、途中のコンビニで買った缶コーヒーの温かさを頼りに停めてあるMTBまで向かう。
〈レイディエンド〉で貨物船を無力化した後。
結局俺が放射した魔力は貨物船の魔力炉を直撃、俺やカートリッジ内にあった魔物娘の魔力――あの時は天宮姉妹とメフィルさんのものだったらしいが――で魔力炉内の魔力は吹き飛ばされて天高く昇っていった。
その後が少々騒ぎになり、真っ暗だった空が桃色の魔力光でピンク色に染まり魔力が雲と結合してそのまま雪を降らせたのだがその雪が魅了と催淫の効果を持っていたらしく街では普段より番や伴侶を得る男女が多く発生。
俺達は既に退避を終えておりその恩恵に与る事はなかったのだが、この事態の原因は何かと究明するような動きもあったらしい。
だが、その時は俺のお袋を含め有志でリリム達が名乗りを上げ『原因は自分たちのサプライズである』と公言した。
リリムなら仕方ない。
そんな空気の中追求はお開きになったのだが、その後ろには先生の影があったとかなかったとか。
それと全力の魔力放射による影響もあり、全身に走る地獄の筋肉痛が原因で俺は少しの間入院する事になった。
大事には至らなかったのが幸いだったが、他の入院患者に影響が出ないようにと先生の知り合いの居る病院の個室を宛がわれて様子見となった。家が俺の知らないところで小金持ちだった事が判明した瞬間である。
金銭面の他にも、両親には大分迷惑を掛けた事を後ほど聞かされたので頭が上がらない。
検査の結果俺の体の魔力量は常人と大差ないまでに低くなっていたらしく、病院側としても2日程で収まった常人の筋肉痛患者を無為に入院させる必要はないと判断して目出度く退院した。
ちなみに何処で聞きつけたのか、ボランティアで回っていた時の家族が見舞いに来てくれて地味に涙腺にきたのは内緒だ。
「まぁ、一時的なものらしいんだけどな。早いところ先生には抑制具を作って貰わないと」
先生もソラさんと一緒に見舞いに来てくれたのだが、病院側の検査結果を見た先生は俺の体質の更なる変化について教えてくれた。
まず一つ、薬物による抑制が消えた事で今まで抑えられていた俺の体が急速にその魔力生成量を増やしたらしい。
ただ増やしただけでなく魅了も中級クラスのリリムに匹敵する程に変化したらしく、最早先生でも時間を掛けないと対策が取れない状態との事だった。
二つ、魅了効果の範囲が狭まったらしい。
これは生成量と質が上がったのはより魔力を使うのに適した個体に進化した結果、体側が動かすのに必要な魔力の発散を抑える為に取った防衛反応ではないかというのが先生の言だった。
とはいえ相手を長い間直視すると魅了の魔眼と大差なくなるらしいので再調整した薬を飲むよう指示をされている。
ここまで聞くと生物兵器への道まっしぐらなのだが、先生は抑制具を作れればそれらも収まるだろうと説明を加えてくれた。
俺の変化を促されたのは俺自身の体が薬による抑圧から解放されたのが理由だが、【祝福鎧】〈レイディエンド〉はその状態の俺を自身が稼動する為の魔力循環サイクルに引き込んでいたのが判明した。
俺の全力状態の情報を〈レイディエンド〉が記憶した為、抑制具を作って〈レイディエンド〉と同期し定期的に魔力を〈レイディエンド〉側に送ればより安全に日常生活を送れるだろう、というのが先生の言い分だ。
勿論俺に断るという選択肢は無いので、完成を今か今かと待っている日々である。
「それにしても寒いな。もしかして親父とお袋、ただ外に出たくないだけだったんじゃないか?」
二人とも年末の大掃除をしているのだが、洗剤が足りなくなったり雑巾の枚数が足りなかったりと色々抜けていた。
時間も午後に差し掛かろうという時なので、休憩がてら俺が買出し担当として自転車を漕ぐ事となった。
尚ついでに娯楽もと俺の趣味でレンタルで何か借りてきて欲しいと言われたのでいくつか見繕い終わったところが今である。
ちなみに借りたのはリメイクされる前のSF映画や無難な恋愛作品だ。
リメイク版は魔物娘を新たにキャスティングに加えて魔王印の倫理委員会監修の作品となっている為無駄にエロが投入されている作品が多い。
んなもん投下したら両親が盛って俺が全部掃除しないといけなくなるので、選別には非常に時間を費やした
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