九軒目:とある埠頭と祝福の光

※最長と思える19000字超です。時間がある時に暇潰しでご覧下さい。
※地の文が一人称と三人称で混同されて読み辛いかもしれません。



 人影の消えた廃屋の中、マイティスは心中穏やかではなかった。
 天使達を失ったのもそうだが、それ以上に彼の希望と成り得る『御使い』までも手放してしまったからである。
 心中穏やかでなくても外見にはおくびにも出さず、焦る気持ちがあろうとも再び手にする算段を考える。
 そう例え――――

 「俺が居ない間に随分間抜けな事をしたみたいだな? マイティスさんよ?」

 ――――どうしても好きになれない、粗野な同僚が同席していても不必要に心乱されては取り返せるものも取り返せない。
 マイティスは心中穏やかではなかったものの、目の前の人物の機嫌を損ねぬよう言葉を選んだ。

 「返す言葉もない……全ては自分の力不足に相違なし。パーシス殿には面目立たぬ」

 深く腰を折って頭を下げる。
 彼女から預けられた天使保護部隊を守りきれなかったのは事実である。
 どのような経緯であれ壊滅させたのは己の所業なのだ。
 どのような叱責でも甘んじて受けねばならない。
 素直に非を認めたマイティスに対し、パーシスと呼ばれた女はニヤつきながら答える。

 「あぁ、別に俺に謝らなくても良いんだぜ。あいつ等も覚悟の上で行動してたんだしな。だぁが……残念だったよなぁ? 虎の子の御使いちゃんが手に入らないって事は上はカンカン、妹さんも助かる可能性が低くなったってこった」

 「……確かに。だがすぐに取り返す。時間を、頂きたい」

 「どのくらいだ? 明日か? 明後日か? いや、俺はやりたいんだけどな。上を誤魔化すのも大変なんだよ……ただでさえ兵隊が減っちまったしよぉ。やるなら早急に、お前さん一人でやる事になるが構わねぇか?」

 ペナルティのつもりか――――

 そうは思うものの、マイティスは内心安堵した。
 一度逃してしまった以上、彼が手に入れるべき天使は厳重に保護されているだろう。
 それこそ部隊を率いて行けば返り討ちになるくらいの規模で。
 
 だが、自分一人であれば話は別だ。
 相手は数で勝り装備で勝り技量で勝る。
 人間一人相手であれば必ずといって良いほど油断をするだろう。
 それに単身であれば、仲間達に無駄な犠牲を出させる事が無くなる。
 マイティスは短い時間目を瞑ると素早く瞼を開く。

 「早急に、と言ったな。パーシス殿」

 マイティスは立て掛けてあるクレイモア――待機状態である愛用の【祝福鎧】〈ラストスタンド〉を手に取り足早に歩き出す。
 
 「承知した。只今より向かう故、貴公は為すべき事を為すがいい」

 目標の天使が居る場所は既に割れている。
 騎士道には反するが、既に栄光とは無縁の身である。
 相手の驕りを存分に利用させて貰う腹積もりで、マイティスは『御使い』――天宮 愛生の奪還を果たすべく愚直ともいえる真っ直ぐさで進んで行った。

 人影の消えた廃屋の中、女が一人取り残される。

 「クックッ……健気だねぇ。まぁ? 可愛い妹さんの為だもんなぁ。仕方ないよなぁ?」

 誰とも言わず語りかける女は、一言で言えば炎を連想させる女だった。
 中途半端に伸びた赤毛は緋色に近く、癖毛なのか所々外に跳ねている。
 相手を値踏みするかのような瞳は金色で、さながら温度の低い炎のようであった。
 
 「とっくに妹なんざ消えてなくなってるってのによぉ、本当、健気なもんだなぁ? ウン」

 歪めた口元には常に相手を嘲笑するような笑いが刻まれ、女性的な丸みを残しつつもしなやかに付いた筋肉には幾つもの細かい傷跡が刻まれている。
 荒々しい言動と雰囲気のお陰で正直――ラフな服装で恵まれた谷間が見えなければ男でも通ったろう。

 「クカカカカ……あの澄ました顔にクソみてぇな真実を告げたらどんな顔をするのかねぇ? いやホント、想像するだけで堪んねぇなぁ、オイ――」

 誰に聞かせる訳でもない独り言は、ただただ愉しそうである。
 さながらその表情は聖者を堕とさんとする、悪魔そのものであった。







 ソラさんの容態は安定しているようだった。
 未だに意識は戻らないものの、先生が言うには魔力の消耗を最低限に抑える為の休眠を取っているだけだという事だ。
 峠を越したと言えるそうなので、俺等は挨拶もそこそこに帰る事にした。
 
 「じゃ、先生。お疲れさん。ソラさんが目を覚ましたら宜しくな」
 
 「(エ△エ) あぁ、言っておこう。薬は新しいのを調合しておくから、近日中にソラに迎えに行かせよう」

 ちなみに――俺『等』というのは何故かというと沙耶がソラさんの部屋の前で待っていたからだ。
 お陰で帰りはコイツと一緒である。
 
 「何か言いた
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