六軒目:とある誘拐船と天使の救出

※今回も長文で12000文字超です。時間に余裕がある時にご覧下さい。
※顔文字注意の他、胸糞注意です。魔物娘への暴力シーンがありますので、苦手な方はご覧頂くのを控えた方が良いと思われます。


 
 PM 17:30


 そこは檻であった。
 光を受ける事で暖かな印象を与えるようベージュの壁紙が隙間無く貼られており、職人の手になる上品な装飾を施された調度類が狭苦しさを感じない程度に配置され飾り立てられている。
 天井付近にはシャンデリアを模した電灯が煌々と輝いていており、調度類はそれらを受けて自己の存在を主張する。
 部屋の奥まった位置には天蓋付きの大きなベッドがあり、人間一人が身を横たえるには過剰な広さを持つそれは納まるべき主の到来を待っていた。
 床一面には毛足の長い絨毯が敷かれ、歩くものの足元を柔らかく受け止めている。
 有り体に言えば、気を使った成金趣味の空間が広がっていた。
 
 だがそこは檻だ。
 彼女も調度類の一部は好みであったが、それでも積極的に使う気にはなれない。
 何故ならこの部屋の調度類は全て盗品だからである。
 掠め、奪い、時に暴力に訴えて自己の物にしてきた欲の収集物だからである。
 籠の中に閉じ込めた鳥に少しでも長く居続けさせる為の苦労はあろうが、それを考慮したからといって到底羽を伸ばしたいとは思えなかった。

 両親は心配しているだろうか。
 一緒に居た妹は無事逃げられただろうか。
 牢に入れられていたあの子は理不尽な扱いを受けていないか。
 明日の我が身の事もだが、家族や知り合いの安否が分からないというのは本当にもどかしい。
 
 (――――せめて、外に連絡が取れれば)

 出入り口である扉は外側からしか施錠出来ないようになっており、かといって窓から出ようとすれば触れようとした指先に火花が散る。
 どうやら天使を捕らえる為の魔法を施しているようだった。
 現状、籠の鳥に甘んじるしかない。
 溜息しか出ない状態に籠の鳥――天宮 愛生(あまみや あいお)は脱力して手近な椅子に座り込んだ。
 
 意気消沈していると、控えめなノックが響く。
 数秒答えずに沈黙を保つが扉が開かれる様子は無い。
 彼女は観念して口を開いた。

 「どうぞ」

 返答を待っていたのか、ガチャリ、という音共にゆっくりとドアノブが回る。
 現れたのは背の高い男だった。
 
 白に近い金髪は短く刈り込まれ、切れ長の碧眼の上には意思の強そうな眉が乗っている。
 筋の通った鼻梁は男の顔にメリハリを与え、口元は緩いへの字に締められていた。
 厳しい戦を戦い抜いた雰囲気としっかりとした輪郭の上に乗る彫りの深い顔立ちが相まって、質実剛健な美男子と言えるだろう。
 
 「ご機嫌麗しゅう御座います、御使い様」

 騎士が忠節を捧げるように膝を折り、恭しく礼をする。
 もし今ジャケットにGパンといったラフな服装ではなく、鎧に外套を着こんで剣を提げていればさぞや絵になったろう。
 だが普段なら見惚れもしたような動作でも、この状況では嫌味にしか聞こえない。

 「機嫌が良いように見えるのですか、貴方は。貴方方のしている事は犯罪です……!」

 「法に触れている事は存じております。ですが御使い様をお救いするにはこのような方法しか……」

 項垂れる男の姿に多少の憐憫は感じる。
 この男も己の信念に従っての行動なのだろうと理解は出来る。
 だからと言って誘拐行為が許される訳ではない。

 「貴方方は救った訳ではありません、奪ったのです。何故それを認めようとしないのですか!」

 「……存じております。ですが今暫くのご辛抱を。一兵ではありますがそれなりの地位は頂いております故、御使い様方はこちらの用が済めば無事にお返し致し差し上げる事をお約束致します」

 「信用出来ません。貴方は兎も角、他の者は明らかに粗暴、野蛮です。私が始め何処に押し込まれていたか貴方は知っていてそのような発言をするのですか?」

 「面目御座いません……全ては我が身の至らなさが原因。あのような扱いはせぬようにと厳命を致します。我が武勲に掛けて誓いましょう」

 より深く頭を垂れる男に愛生は眉を顰(ひそ)める。
 彼の言葉に嘘はない。そう断言出来る実直さが出会ってからの行動で確信出来た。
 自分を連れ出すように言ってきたのは別の――控えめに言っても粗暴極まりない――人間だったが、その前の別の男が振るいかけた暴力を身を挺して止めてくれたのは彼だった。
 少なくとも犯行グループの中ではかなり上の立場の人間なのか、渋々とはいえ彼の発言に逆らう者は居なかった。
 実力も有り、実直で理不尽な暴力を良しとしない正義感を持つ人間なのだろう。
 だからこそ、彼が何故この犯行グループに手を貸しているのか
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