二軒目:とあるリザードマンのお宅

※本編には多少の筋肉とバトル要素、理不尽な展開が含まれます。
※魔物娘が痛い目に遭ってしまうので、苦手は方はお戻り頂く事を推奨します。
※1万文字超えました。すみませぬ。m(_ _;)m



 AM10:45 
 
 非常に内容の濃い一軒目が終了し、早くも体力に不安が残ってしまった。
 残りのお宅もこんな感じになるのは避けて欲しいところだ。
 元々明るいうちのサンタクロースはボランティアの為、一グループの担当する軒数は少ない。
 しかし長引くケースや今回のように途中で人員が欠けたりすると都度連絡を入れる必要がある。
 通常そこで補充要員を要請するか担当するお宅へ連絡し遅れる旨を伝える義務が発生する為だ。
 だがタイミングによってはサンタ同士がかち合う事もあり、そういった場合は適当な挨拶と暇なグループが手伝う事で時間短縮を図る暗黙の了解がある。
 何が言いたいかというと、今のところ遅れるのは想定の範囲内であまり人員を必要としていないにも関わらず、連絡する前に俺等の担当するお宅にサンタが居る筈がないって事。

 トナカイ色に塗装されているハイエースの近くに居る体格のいいサンタクロース達と、殴られて地面に伏せられている温厚そうな家主と心配そうに声を掛けながらサンタを威嚇している理知的なリザードマンならどっちを信用するかってところだ。

 「我等は正規登録されているサンタクロースだぞ!お前達の手伝いをしてやるのだから大人しく娘を渡せ!!」

 「安心しろよ、悪いようにはしねえから。ちゃーんとクリスマスが終われば返してやるよ!」

 「俺達は心優しいサンタだからなぁ!お前達魔物にも寛大なんだよお!」

 対手は四人。
 いずれも体格がよく、鍛えられた筋肉は安物のサンタ服を押し上げている。
 
 「確か娘は二人居たな、どうだ? なんだったら俺達がお前等の【性夜】に付き合ってやってもいいぞ?」
 
 「こっちは一人でもいいんだが。ただそれだと無事に帰せるか分からんからなぁ」
 
 「そこの眼鏡のリザードマン、こちらに来い。楽しませてやるぞ?」

 各々ゲラゲラと下卑た笑い声を上げながら、家主を更に痛めつけようと前に出る。
 そのお陰で何故彼等が何も出来ないか漸く理解した。
 一人がまだ幼いリザードマンの少女――いや、まだ幼女の域か――を押さえつけて家族の前に行かせまいとしているのだ。
 サンタの服を着て。

 その瞬間、今まで耐えていた部分が引き千切れた。
 理性という名の鎖が。







 何故、目の前にいるのがサンタなんだろう?
 私達に夢を希望を与えてくれる筈のサンタクロース達は、今笑い声を上げながら動けない父を殴りつけ姉すら毒牙に掛けようとしている。
 
 何故、私は弱いのだろう?
 私が強ければこんな奴等簡単に叩きのめせるのに。
 こんな悔しい思いはしないのに。

 何故、私は子供なんだろう?
 幼くなければこんな奴等の人質になんてならないのに。

 どうしてこんなにこいつ等は騒がしいのに、皆助けに来てくれないんだろう?
 こんな理不尽を野放しにしているんだろう?
 この世に私の知る正義はないのか?

 醜悪な筋肉達磨は私を強い力で押さえつけ離さない。
 
 何で、何で、何で、何で――――

 考えは纏まらず、纏まらないからこそ感情が抑えられない。
 
 悔しい。
 途方も無く悔しい。
 無力な自分が何よりも悔しい。

 悔しくて押し殺した泣き声を、悪魔は聞き逃さなかった。

 「お? どうした? 怖いか? おい」

 強い力でこちらを相手の方に向き直す赤い悪魔。
 こちらが怯えている事を確認する、弱者を嬲る者の目だ。

 「怖いだろうなあ? でもな、お前は今からもっと怖い思いをするんだよ」

 そういうとそいつは私の首を掴み地面へと引きずり倒した。
 強い力で首を圧迫されて、思うように呼吸が出来ない。

 「かはっ……ひゅ……かっ……」

 体が空気を欲しがるのに、入り口が狭くて必要な分が入らない。
 必死に呼吸の邪魔をする万力のような手を退けようとするが寒さのせいで普段以上に力が入らない。
 
 「やめろっ!娘に何をするんだ!! うっ!」

 父の声が聞こえる。
 聞こえた後また殴られたのか呻く声が届いた。
 
 「お父さん! お父さんっきゃああぁぁぁっ!!」
 
 「お嬢ちゃんはこっちにくんだよ。妹と可愛がってやるからさぁ……」

 「離してっ! お父さん! お父さん!!」

 「あーうるせ。おい、さっさと連れてくぞ。装置はしっかり働いてるようだが、念の為だ」

 心なしか意識を保つのも難しく、段々と視界が暗くなってくる。
 こいつ等の話だと私も姉も何処かに連れて行かれてしまうようだ。

 嫌だ……父さん、母さん……。
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