※約9600字程あります。お時間のある時にご覧下さい。
※花子(仮)さんは次回から復帰です。
霞の探し物は視界に入れば簡単に見つかる範囲の物品だ。
探し物は成人男性用の枕くらいの大きさで猫のぬいぐるみ。
色は明るい黄系統で虎柄だそうだ。
探す範囲が広大である為、俺達は病院の上下を手分けして探す事にした。
霞は他所の病室や屋外への持ち出しは一切していないと言っていたので他人様の病室に忍び込む事はしなくて良くなった。
結果、廊下や階段、トイレ等を重点的に探すのが俺の役目である。
ちなみに霞は落し物の届出がないかナースセンターに行って貰った。
そこで見つかれば万々歳だし俺もさっさと帰れる。
霞に口裏を合わせて貰ってここから出れるよう便宜は図って貰う約束はしているので、俺の社会的抹殺を逃れる為にも何かしら貢献はしなくてはならない。
しかし――――
「――――不気味なくらい静かだな。病院だから当然なんだろうが」
正直言えばスニーキングミッションなどせず巡回する看護師でも見つけて適当に聞きたかったのだが。
運悪く巡回がまだなのかこの階は終わってしまったのか、人っ子一人見掛けない。
夜の暗さに目が慣れてきたとはいえ、正直こう暗いと心細くなる。
それに俺はこんな光景を以前見た事があるような、ある種の既視感を感じていた。
薄暗い廊下。
人の気配の無い空間。
仄暗く縁取られた人工物達。
ここまでを想起して、俺は頭を振る。
いや、無い。そんな光景、俺は記憶に無い。
今回が初めての筈だ。
数秒きつく目を閉じる。再び開かれた目蓋から肉眼が捉えた光景は、初めて目にするものだと俺に確信させた。
「……ったく、人が居るくせにこんだけ静かなのが悪いんだよ。寝息くらい立てろっての」
耳が痛くなるくらい静かだった。
歩いている際に響く俺の足音くらいしかならないのは深夜の病院としては正解なのだろうが、こうまで静かだと本当に人が居るのか確認したい衝動に駆られる。
例えばそこの病室の扉を開けば、本当に入院患者たちは横になっているのか。
僅かに光る誘導灯を、区切るように配置されている真っ暗な階段の入り口から看護師は来るのか。
曲がり角を覗けば巡回中の看護師や警備員が持っているであろう懐中電灯の光が、所有者の動きに合わせて向こう側に消えていかないか。
そう、誰か居れば。
自分がこの建物の中に閉じ込められたのではないか、という錯覚を否定してくれる誰かが居れば。
そのような事を頭の片隅に考えながら、俺はすぐそこの女子トイレの前まで来てしまった。
…………ここにあっては欲しくないんだがなぁ……。
南無三。
心の中でこの時だけは誰かに見つからないようにと祈りながら、俺は男子禁制の区画に足を踏み入れた。
いっせいさん?で良かったっけ。あの『げいにんさん』のいう通りに来たんだけど、忙しいのかナースセンターにはだれも居なかった。
うーん、ここにお姉さんやお兄さん達が居れば猫ちゃんがとどけられてないか聞いてみろって言われたんだけど。
何人かは居るだろうからって言ってたけど、困ったなぁ、だれも居ないや。
わたしは何となく周りを見てみる。
壁には沢山のランプのついた機械がある。
数字がランプの横にあるから、これがナースコールのボタンを押したときに光るんだと思う。
部屋の真ん中には、わたしが横に寝てゴロゴロしても落ちなさそうな大きな机と沢山の椅子があった。
他には封筒や薬の入った棚があっちこっちにあるくらいで何も無い。
(居なかったらしばらく待ってろっていってたっけ)
何にも出来ることがない。
退屈だから椅子に座ってくるくる回ってみたけど、すぐ飽きてしまった。
ちらりと壁掛けの時計を見ると、長い針が少し動いただけで違いが無い。
あんまりにも変わらない。
退屈で死にそうってだれかが言ってた事があるけど、本当にそう思う。
一人ぼっちで友達を探して、見つからないから寝てまた探して。
毎日変わらないまま、退屈を埋めてくれる友達をずっと探してた。
(…………もう、見つからないのかなぁ)
何となく浮かんだだけの言葉。
なのに、意味もなくわたしを信じさせる言葉。
もう、探し物なんてどこにもないんじゃない?
ずっと昔になくなって、形も見えなくなって。
触ることもできなくなった、わたしのお気に入り。
そういえば最後に触ったのはいつだったろう。
凄く近くにあった気がする。
「いっせいさん、か……」
どうやって来たのか知らないけど、わたし以外見つからないこの病院で久しぶりに触れた『他人』だった。
あんま
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