第十二話:末日のラストミッション

 


 「課題、写させてくれ」

 玄関を開けて数秒後に、豪は最短で用件を言い放った。
 表情は固く眼光は真剣そのもの。
 教材と筆記用具を忍ばせているであろうバッグはたすき掛けるその姿は一般の学生が放つ空気等微塵も無かった。
 追い詰められた者特有の焦りと直面した現実に立ち向かう意志の強さがない交ぜとなり、まるで残された兵站で戦場を超えようとする兵士のような雰囲気を放っている。
 
 時刻はおおよそ9時半。
 周到に準備を済ませ立ちはだかる友人を前に、俊哉はしばし何処でもないところに視線を這わせた。
 
 「……とりあえず、上がりなよ。玄関じゃ何も出来ないからね」

 スペースを譲られた豪は『お邪魔します』と一声掛けて靴を脱ぐ。
 そのまま靴の縁を掴み反対方向にして揃えると、次の友人の行動を待った。
 半歩分ほど譲られたスペースから再び自宅に上がりこみ、俊哉は豪へ居間で待つように伝える。
 豪は出された麦茶を一口嚥下すると低頭平身で同じ用件を再び口にした。
 俊哉はいぶかしみながら豪に尋ねる。
 
 「勉強が学生の本分、って形式ばった事を言う気は無いけど。豪ってそれなりに計画性あったよね?何でこんな最終日に切羽詰ってるのさ」

 彼――斑鳩 豪(いかるが ごう)――の名誉の為に言えば、彼は平均程度に学業はこなせる。
 運動の方が得意であるものの、少なくとも授業を受けていれば赤点は避けられる程度の頭なので余程難しくない場合俊哉を頼る事はまず無い。
 そして今回出された課題は一般的なものであり、授業を受けていれば難なく片付く範囲のものであると俊哉は捉えていた。
 その為、計画性の無い小中学生のような事を言い放つ豪の姿そのものに違和感を感じているのである。
 
 「いや……俺さ、親父とお袋が毎回乳繰りあってるから普段はヘッドホン付けて音楽とか漫才とか聞いてるんだよ。特にお気に入りの音楽聴いていると没入度がヤバいから勉強の時とか重宝してるんだけどな」

 罰が悪そうに語り始めた豪に、俊哉は自分の前に置いた冷たい麦茶を口に含む。
 生返事のような相槌を返して先を進めるように促すと、豪は再び口を開き始めた。

 「メフィル」

 俊哉はその名前に聞き覚えがあった。
 フルネームはメフィル・フォン・ファウトと言ったか。
 確か正月あたりに豪を探していたところに遭遇したデビルの少女である。
 
 「あいつ、どうやって入ってんのか知らないが何時の間にか俺の部屋に居るんだよ」

 溜息一つを説明の小休止にし、尚も豪は続ける。
 
 「音も無い、気配も無い。ある程度進めてちょっと休もうかって時に後ろから『終わったー?』って抱きついてくるんだぜ?死ぬほどビックリするわ。しかもまだ終わってないところを見ると『セックス一回で一教科終わらせてあげようか?』とか言ってくるし。自分でやんなきゃ意味ないって分かってて言って来るんだぜ?俺を依存させて童貞掻っ攫おうって魂胆だろうし。性質悪ぃわ」

 (さっさと終わらせて構って欲しいだけなんじゃ……)

 脳裏にメフィルの内情を想像する俊哉を尻目に、豪は更に詳細を語り出した。

 「あんまり構わねーと今度は仲間を呼ぶしな。例のチビっ子軍団」

 「あぁ――――成る程ね」

 メフィルを含む豪の(将来的な)嫁達の姿を俊哉は思い出した。
 まだ幼いが全員器量良しであり、4、5年ほど経てば相当化けるというのが事情を知っている豪以外全員の共通見解である。
 惜しむらくは豪本人に余裕がない為中々その事実に気付けていないという事だが。
 メフィルが豪の個人情報流出元であるなら、その面々が訪問するのも頷けるというものだった。

 「愛紗(アイシャ)はメフィルとエロ本探しする、美緒(みお)はひっついて離れない、愛生(あいお)と愛弓(あゆみ)はその場で持参してきた菓子と飲み物を広げて長居しようとするし。狭いわ五月蝿いわ暑いわで大変なんだぞ!? 正直旭緋(あさひ)と沙耶(さや)が毎回ストッパー役してくれなかったら俺の精神がどうにかなりそうだわ」

 ちなみに彼女達の種族は愛紗から順に、
 
 ・サキュバス
 ・デビル
 ・リザードマン
 ・エンジェル(二人とも半堕天状態)
 ・稲荷
 ・デュラハン

 となっている。
 外見的な平均年齢はおおよそ9〜10歳前後。将来に期待、である。
 
 (……旭緋(あさひ)さんと沙耶(さや)さんは結託してるしなぁ。膠着状態か)

 露骨なポイント稼ぎ、と言えなくも無いが豪の平穏は彼女達の膠着状態によって支えられている為、彼が今以上の変化を求めない限りこのままを維持するしかない事を俊哉はぼんやりとしながら考えていた。
 
 「んな訳で頼むっ! 時間が無かったんだ、写させてくれっ!」

 「……豪の事
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