第九話:中前編 夜型親父の参加劇

 



 
 境内には残っている人物が少なくなっていた。
 あれだけ沸き立っていた参拝客達は、神社側から異例の『お引取り』を頂いた為既に境内から姿を消している。
 神社側から参拝客達にされた説明は

 『イベントの準備が予想以上に大きくなってしまった為、今日一日は境内の後片付けをさせて欲しい。』

 という苦肉のものであった。
 
 神社側の言うイベントは当然紅白ニンジャズの暴走。
 後片付けは無論当人達を含めた事情の聴取と対応である。
 まさかその通りを説明する訳にもいかなかった為、事情を知らぬ参拝客達の何割かは不満を漏らした。
 しかしその内容は概ね伴侶との子宝祈願や気に入ったバイト巫女のお持ち帰りであった為、前者は神社の力のある魔物が特別に誂えたお守りを渡し、後者は立会人を立てて双方の意思を尊重出来るものは許可を出す事で治まっている。

 故に現在この志磨妃古(しまひこ)神社に居るのは神社の主要関係者、並びに当事者の身内である俊哉達だけであった。
 現在彼等は神社の関係者である東雲に連れられて、御堂に一同に会している。

 「現在状況は芳しくありません」
 
 東雲は一同が会すると、一拍置いてから口を開いた。

 「既に数名の魔物娘やその伴侶の方々が向かいましたが、その事如くが撃破され無力化されている状態です」

 「……でしょうね。こうなる事は予想してたから真っ先に捕まえたかったんだけど。あの人の妻として謝罪させて貰うわ。本当に、ごめんなさい」

 深々と頭を下げる春海。
 その姿には普段の呑気な姿はどこにも無かった。

 「それをいうなら仕留めたと勘違いした僕の責任です。この神社の方々には何とお詫びすればよいのか……申し訳ありません」

 母親に倣い、俊哉も頭を下げる。
 無用な被害を抑える為の母の策を、自分が台無しにしてしまったと俊哉は考えていた。
 もし撃破したと考えたなら、放置などせずにそのまま縛り付けてしまえば良かったのである。
 いくら久という脅威を目の当たりにしたとはいえ『倒した相手が本当に倒れたのか』の確認を怠ってしまった為に起きた結果であった。

 「それで……被害の方は?怪我人が居るんですか?」

 有麗夜は居たたまれずに話を先に進めようとする。
 東雲は困ったような笑顔を浮かべながら応じた。

 「怪我人は一切居ません。ただ……」

 「ただ?」

 自身が知らされた情報から全てを公開するか言い淀む東雲に豪が食らいつく。
 ちなみに今はKABUKIスタイルではなくなっていた。
 薬の投与と周囲への配慮を考えなくて良くなったからである。
 東雲は困った表情の笑顔のまま、観念したように続きを答えた。

 「いえ。どういう訳か全員酔い潰されていました。気持ちよく寝ているようですが、顔中に落書きもされています。気付いた後が怖いですね」

 酔い潰した上に落書き。
 完全に手玉に取っている状態である。
 恐らく害意があっても敵意や殺意など強い感情ではなかったのだろう。
 近所のおっさんが悪ノリで悪戯をするようなものであり、かなり緩んだ空気のまま仕掛けた可能性がある。
 そうでなければ、それなりに荒事の応対が出来る人員で構成された鎮圧部隊があっさりと迎撃される理由が無かった。
 一同の頭が痛くなる中、悠亜が挙手をして発現する。

 「『酔い潰した』って事はアルコール類が有るって事だよね。何処から調達したのかルートの特定は出来ないのかな?」

 「そうか……、ルートが分かれば行動範囲の特定が出来るかもしれない。闇雲に探すよりはいいですね」

 悠亜の発言に俊哉も思考を始める。
 行動範囲の特定、考えられる思考ルーチンからの挙動を整理し速やかに事態を収拾すべく回転速度が上がっていく。

 「それについては特定が出来ています。ここではありませんが、離れたところに奉納された神酒を収める蔵がありますから調達はそこからでしょう」

 「失礼ながら根拠はありますか?外に買いに行っている可能性もあります」

 「それは無いわね。だって利秋さんの財布ってここにあるもの」

 東雲の発言の信憑性を裏取ろうと質問を続ける俊哉に、春海が手品のように長財布を取り出す。
 東雲は苦笑いを浮かべながら更に続けた。

 「外には出ていないと思いますよ。神社から出る、出ないくらいは結界の境で分かりますから。出たら一部の神社関係者には分かるようになってるんです」
 「それに利秋さんの着ている衣服は外からの魔力を吸収する能力があるそうですから。必然的に大きな魔力の反応が移動する訳です。分からない筈がありません」

 「……分かりました。ありがとうございます」

 頭を下げながら今後の策を練ろうと俊哉は考え込む。
 先程鎮圧部隊を迎撃したのであれ
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