第八話:クエスト〜ニンジャ達を撃破せよ!〜

 
 ※注意※
  長い上にノリだけの会話が続きます。
  ご覧頂ける方は可能な限り、深く考えないで下さい。







 神おわす社。
 本来静謐と厳粛が支配するべき地は今、年の瀬を越え、年の始まりを健やかに過ごそうと願う人々で溢れていた。
 願う思いの篤さ故か、願い人が傍に居る熱さ故か。
 境内に吹き荒ぶ寒気は、所々に残る白化粧がその装いから意識に上るだけで人々の熱気に押し負けているようだった。
 そして

 「イヤーッ!」

 「イヤーッ!」

 その熱気の渦中とも言えるところに一組の影が見て取れる。
 装いは色違いの同一であり、身のこなしは引けを取らず軽い。
 
 飛び、跳ね、回る――――――
 
 お互い寸分の狂いなく跳ね回るその姿は、平時見られぬその装束と軽業師じみた動きから人々の脳裏に一つの言葉を紡がせる。

 時に幻惑し、迷わせ、影に葬る影に生きる者。
 忍者と呼ばれるその姿は、今本来の意味とは裏腹に広く人々の意識に刷り込まれようとしていた。

 「ハイッ!」

 白いニンジャの両手には、計四つの白濁とした湯気の上がる液体が注がれた容器があった。
 見るからに熱そうなそれは、実際熱いのか白ニンジャが近くから拝借したタオル越しに底から支えられている。
 白ニンジャは何を思ったのか掛け声と共にそれを天高く放り投げてしまった。
 支えから外され重力の虜となった湯気を上げる液体は、そのままでは引力に引かれ器である湯飲みの回転と共に自らの熱を振り撒き、周囲の参拝客を灼かんとする。

 ―――その筈だった。

 「ハイッ!」

 今度は赤いニンジャから掛け声が上がる。
 白いニンジャはその声に応じると、中腰で何かを持ち上げるような格好のままじっと待っている。
 赤ニンジャはそのまま白ニンジャに駆け寄ると、持ち上げるように待ち構えていたその両手に躊躇なく片足を乗せた。
 その瞬間を待っていた、とばかりに白ニンジャも再度掛け声を上げる。

 「ハイッ!」

 「ハイッ!」

 「「ハイイィィィィッ!!!」」

 足を乗せた赤ニンジャをそのまま勢いよく頭上に放る白ニンジャ。
 両者は絶妙にタイミングを合わせ、天高く赤ニンジャが宙を舞った。
 刹那―――赤いニンジャの衣装が意思を持つかの如く伸び、回転を続ける湯飲みを全て絡め取ってしまう。
 
 如何なる力が働いたのか。
 絡め取った湯飲みとその中身を一滴も溢す事無く赤ニンジャは音を立てずに大地に帰還した。

 「ハイッ!」

 見得を切ったその姿に、境内から割れんばかりの拍手喝采が起こる。
 赤ニンジャは何度目になるか分からぬその中でゆっくりと立ち上がると近寄ってきた白ニンジャと対峙し、おもむろに頭上でお互いの手を打ち合わせた。

 「「Yeaaaaaah!!!」」

 やり遂げた雰囲気の中、懐からプラスチック製のストローを取り出す紅白ニンジャ達。
 両者の手に渡った白濁液―――境内で振舞われている甘酒である―――にそれを差し込むと一仕事終えた後の一服のつもりかそのまま啜り上げていった。
 空になった湯飲みを返却した後、彼等はまた何かを始める準備をしていた。

 最早境内の空気は異様な熱気を孕んでおり、彼等が披露する大道芸を参拝客達は目を輝かせながら望んでいる。
 彼等はそれを確認すると、次の見世物を用意しだした。

 「イヤーッ!」

 白ニンジャが手招きすると、赤ニンジャは自らを指差しながら不思議そうな感情を体全体から表す。

 「イヤー?」

 「イヤーッ!イヤーッ!」

 疑うまでもない、とばかりに頷きながら先程よりも強く手を振って呼ぶ白ニンジャ。
 赤ニンジャは訝しみながらも寄っていく。

 「イヤー?」

 「ear!」

 「ear?」

 「Yeah!」

 白ニンジャは自分の耳の部分を何度か小突いて赤ニンジャを呼び寄せる。
 耳を貸せ、という事だろう。赤ニンジャもそれを察したのか、自分の耳の部分に手を添えて顔を寄せた。
 
 数秒経過。
 聴衆に聞こえぬ程度の打ち合わせを済ませ、紅白ニンジャズはまたしてもお互いの手を打ち合わせる。

 「「Yeaaaaah!!」」

 
 打ち合わせた余韻が響く中、何を思ったのか彼等が駆け寄る先は成人の背丈数倍はあろうかという程の大きな白い壁だった。
 その隣には人の背丈程もある大きな毛筆が立て掛けられており、近くには陶製の甕がいくつも並んでいる。
 甕の中身は黒い液体で並々と満たされており、その液体が近くにある道具から墨汁である事が想像出来た。
 そうなると大きな白い壁は、どうやら書初めに使われる巨大な紙という事になる。

 大きな紙に人の背丈ほどもある毛筆でその年の抱負を書き初める。
 有名なパフォーマンスを模倣したもので
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