階段を上り朱塗りの門を抜ける。
左右には年始に参拝する者達の為の破魔矢や熊手、安産祈願、交通安全、恋愛成就、学業成就、縁結び等のお守りを販売する窓口やまるで恋人のように腕を組み、手を握り参拝客と共に境内を案内する巫女の姿があった。
正面には更に重厚な造りの門があり、その奥には本殿への参拝を行う者達が犇いている。
本来は御手洗から参拝までと人の流れがあるのだが、どういう訳かその歩みは止まってしまっており代わりに携帯電話やカメラを頭上に上げている者が多数居る。
その方向はどれも境内中央に向いており、そこに人々の関心を引く何かがあるのだと俊哉達は把握した。
「……よぉ、俊哉……さっき振りだな……」
体力を消耗したような声で俊哉に呼び掛ける人物。
先程別れたばかりの斑鳩 豪(いかるが ごう)である。
心なしか若干汚れや衣類の解れがあるように見えるが、ここに居るという事は上手く逃げおおせたのだろうか。
「……大丈夫か、豪。凄い疲れてるように見えるんだが……」
「応よ、何とかな……結局お子様達に見つかっちまってな。後で埋め合わせする事で何とか自由を得たってところだ……」
何日も山を遭難したような消耗っぷりには流石に俊哉も罪悪感が芽生えたのか、素直に頭を下げる。
「スマン、豪。僕は結局役に立てなかったようだな」
「なぁに、気にすんな……さっきの電話でもお嬢ちゃん達が『他の所を探す』って言ってたって話してくれたろ?時間稼ぎしてくれたんだから、見つかったのはこっちのミスだ」
乾いた笑いで空元気を主張する豪に沙耶が肩を貸してその身を支える。
「おい、沙耶……」
「ここでは休めませんよ。豪さん、この神社には休憩出来るところも用意されてありますし、空きがないか確認して横になりましょう?」
「いや、そうじゃなくて。お前の首の留め具ってそんなすぐ外れそうだったか……?」
身を労わる台詞とは裏腹に艶が滲む声。
豪は思わず身の危険を感じ俊哉へと振り向く。
この疲労している状態で仮に性交にでも持ち込まれたら、新年気絶コース間違い無しである。
俊哉としても恐らく起こっているであろう惨状を収集する為に豪の力を借りたく思っていたところである。
野暮である事は重々承知だが、短時間でも沙耶には我慢して貰わねばならない。
「日藤さん、すまないんだけどもう少しだけ豪を借して欲しい。彼の力が必要なんだ」
「……どういう事です?こんなに疲労している豪さんが、まだ何かしないといけないんですか?」
「本当にすまない。豪の馬力や体力が必要なんだ……豪、父さん達はあの人垣の中心に居るので間違いないか?」
「父さん?お前の親父さんって今日来てたのか?」
その発言に俊哉は内心舌打ちした。
経緯の説明が面倒だった為、あの白ニンジャが自分の父親であると言っていなかったのだ。
加えて、心理的にあの状態の父を肉親と認識したくなかったのも話題を避けていた一因だろう。
「今日僕達と来てた、紅白ニンジャの白い方だよ……」
苦々しい表情で呻く様に声を絞り出す。
下手をすると始業式からコスプレニンジャの息子として質問攻めに遭うかもしれない。
学校での自分の評価など気にした事は無いが、それでもイロモノの関係者として扱われるのは抵抗があった。
――――――酒でも飲んでた事にするか。
その甘い誘惑は俊哉を誘った。
コスプレニンジャである事実は避けられない。
ならばその印象を変えてしまえばいい。
どうせ正常な判断が出来ていないのは変わりないのだ。
“年末年始に酒が入っていて正常な状態ではなかった”とでも言えば多少は自分に向けられる好奇の視線を弱められるのではないか。
そう判断し、不本意ながら説明をしようを口を開き掛けた瞬間、俊哉は口を噤む事になる。
「凄ぇ……師匠ってお前の親父さんだったのか……っ!」
「は?」
突然感嘆した台詞を吐かれ思考が追いつかなくなると俊哉の事など視界に入っていないのか。
豪は構わず尚も続ける。
「小さい頃に子供が憧れるもんだろ?勇者!サンタ!ニンジャ!お前の親父さん、子供の憧れを叶えたんじゃねぇか!凄ぇだろ!!」
「その憧れランキング自体今知ったよ」
心底どうでもいい情報を得ながらも、ある意味で豪は陥落されていてもおかしくなかった事を思い出した。
(そういえば豪って、サンタクロースになるって毎年張り切ってような)
だとすれば先程の憧れランキングとやらも納得がいく。
俊哉にとっては不幸な事に、頭痛の種がしっかりとランクインしているのだ。
それだけでは釈然としないのだが、それよりも気になる事がある。
「豪……ところで
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