真崎 悠亜(まさき ゆうあ)。
志磨市立第二高等学校に通う高校二年生。
特定の部活動には所属していないが、身体能力の高さから助っ人として呼ばれる事が多い。
当然友人、知人は多く交際を申し込んでくる男子も後を絶たないが全て断っている。
理由は自分でも分からない。
只、何となく違う気がするのだ。
自分の好みというか感覚というか。
そういった『クルもの』が無いのである。
下腹部に直撃するような衝撃や疼きが、自分に寄ってくる異性に一切感じられない。
それは自身が感じる空虚さにあるのでは、と悠亜は考えていた。
幼い時から優しい父と母。
ヴァンパイアとしては素直すぎる妹。
何の問題も無い、不和の無い家庭に住みながら感じる空虚は自分の種族に原因があるのでないか、と彼女は考えていた。
ダンピール。
インキュバス化していない男性とヴァンパイアの混血児。
本来ヴァンパイアからは避けられ、人間からも同族と見て貰えない魔人。
幼い時は何ら疑問を持たなかった家庭は、年齢を重ね世界を知る毎に違和感を感じるようになった。
父親はまだいい。
だが、何故母親は自分を避けないのか。何故妹は自分に懐くのか。
程度差こそあれ本能的に敵視される筈の自分が、何故こんなにも受け入れられているのか。
考えられる可能性は常に脳裏を過ぎり、しかしそれを見ない振りをする為に快活な娘を演じた。
ヴァンパイアに出来ぬ陽を歩む魔人として、求められる形に自分を嵌め込んだ。
何時からだったか。
どれだけ友人達と遊んでも心が晴れなくなったのは。
何時からだろう。
どれだけ異性が告白してくれても胸の高鳴りがなくなったのは。
何時からだろう。
―――自分が、本来ある家族を壊したのではないかという疑念に取り憑かれたのは。
そして、何時からだろう。
君の存在が愛しいと感じるようになったのは。
「私にとって有麗夜は可愛い妹だ。それはどうあっても動かない真実だね」
洗い物を済ませ、準備した緑茶を啜り悠亜は口を開いた。
「でもね。それはあくまで家族として当然の事であって、有麗夜の言動を拘束するような可愛がりはしないつもりなんだ」
「……そういう事ですか。分かりました」
悠亜の発言に得心した表情を浮かべる俊哉。
「へ?どういう事?」
対して有麗夜は追いつけない、と言わんばかりの表情で困惑している。
俊哉は溜め息、悠亜は苦笑いを浮かべ各々有麗夜を見る。
「ちょっと、何で二人だけ通じてるような表情してんのよ!教えてよ!」
「あのな、有麗夜―――」
「いや、私から話すよ。……有麗夜、少し長くなるけどいいかい?」
躊躇無く感情を爆発させる有麗夜に、悠亜は前置きをした上で説明をすると促す。
有麗夜は小さく頷くと、神妙な顔で続きを待った。
「有麗夜、まず君が俊哉君と初めて会った時の事は憶えているかな?」
「うん。こめかみに良い一撃貰って床を転がってたから。忘れられないわ」
じっとりとした視線を俊哉に投げかける有麗夜と視線を外す俊哉を尻目に悠亜は続けた。
「その前に有麗夜の背中を押したのは私だって事も憶えているかな?『やらないよりはやって後悔する方が何倍もマシだ』って」
「憶えてるわ。そのお陰で俊哉の家までこっそり着いていって夜中に襲う覚悟も出来たもの」
「そう……言ってしまえばそうなるように仕向けたのは私さ。けど、選択肢はあったろう?『やるか』『やらないか』でね」
「うん。私は『やる』方を選んだから、結果的に失敗しちゃったけど」
「だが『やらない』を選んだらどうだった?失敗しない事はまず間違いないよ?」
その発言に少しの間有麗夜は考え、口を開いた。
「ううん。確かにそれは失敗しない。けど、『成功もしない』。やる事で成功する可能性がないんだったら、やっぱり私はやるわ」
「つまり、『自分の起こした行動に関して、どんな結果でも責任を持つ事』を有麗夜は選んだわけだ。私が言いたいのはね、『有麗夜のやる事をサポートはするけど遮ったりはしないよ』という事なんだよ」
そう言われ、漸く得心が行った表情を浮かべる有麗夜。
明るい表情は自分の言葉で理解できた姉の愛情を噛み締めているからである。
「じゃあ、これからも悠姉は私の味方って事なのね!」
「当然じゃないか。可愛い妹だもの。……でも、そろそろ傍観者も飽きてきちゃったんだ」
不穏当な発言をする悠亜に固まる有麗夜。
改めて妖しく俊哉を流し見る悠亜。
聞いていない振りをする俊哉。
三者三様の中、先に口を開いたのは悠亜だった。
「そんな訳で
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