大晦日。
古く大晦(おおつごもり)とも呼ばれる一年の最後の日の事を指すこの言葉は、一ヶ月が30日で終わるという意味の【三十日(みそか)】に【晦日】という字を当て嵌めて“一年の最後の特別な末日”を表す為一年の最後の日につける”大”という字をその前に付ける事で生まれたという説がある。
その昔太陰暦が採用されていた頃は15日が満月とされ、その後月は段々と欠けていき最後には見えなくなってしまった事が【三十日】に【晦日】を当て嵌めた理由ともされている。
天気でも時間でも行事でも。
どのように大雑把なものでも人間がある種の区切りを欲するのは、己を律し周囲と迎する為節目という目に見えないものを理解とする、先人達の英知が込められているからなのかもしれない。
一人の少年は朦朧とした意識の中、そのような事を考えていた。
視界を閉じているこの状態は人間の感覚を鋭敏にすると同時に益体の無い夢想へ誘う。
目を閉じたこの世界。
それは一つの世界を遮って、己の中に新しい世界を構築する儀式なのかもしれない。
思考だけのこの状態は夾雑物など無いに等しく純化された精神と思考は新たな真理への扉を開かんとしていた。
もう少し、あと少し――――――
掴めそうなその真理の到来に少年が腕を伸ばす。
無論形無き真理なぞ掴める筈も無い。
少年が掴んだものは、もっと即物的で役立つものであった。
「俊哉ー♪今日も元気に、起こしにきたっぷわ!」
勢いよく何かが射出される音と、それに直撃した声が重なる。
声の主は顔面を押さえながら右に左にと転げまわっていた。
「ぅああああっ
#9829;なに、これ
#9829;うああああああ
#9829;
#9829;
#9829;」
対する少年は言うと寝台の上から一丁の水鉄砲を構えていた。
ちゃぽん、という音から転げ回っている闖入者の顔面に直撃したのは内部に充填されていた液体であると想像がつく。
「おはよう有麗夜。ところで騒がしいから落ち着いてくれないかな?」
優雅に伸びをしてゆっくりと寝台から降りる少年。
その瞳は既に自室に飛び込んできた闖入者に視線を移している。
有麗夜(ありや)と呼ばれて転げ回っているのは、砂金のように美しい金髪を持つ少女だった。
「ノックすらせず男子の寝所に歩みを進める……いや、飛んでくるか。悪くは無いけど失敗した場合の事は考えていなかったのか?」
「うー……いい作戦だと思ったんだけどなぁ。何で駄目なんだろう?」
液体の効果が薄れてきたのか、今だ上気している表情を浮かべ少女が座り込む。
その少女に油断無く水鉄砲を構える少年。
「あのー、何でへたり込んでる美少女に対して銃器を構えるんでしょうか?」
冷や汗を流しながら少年を見る少女―――有麗夜に、少年は答えた。
「ただの玩具だ。銃刀法違反には該当しないから安心するといい」
眉一つ動かさずに答える少年に、別の意味で動けなくなる有麗夜。
「いやでもその中身って……」
ぶっ掛けられただけで自分が転げ回る液体。
その数少ない、しかし入手が容易な液体に少女は心当たりがあった。
あったが故に下手に動けないのである。
「ああ、真水だな。容器一杯まで入れたから漏れないかと心配したが、問題ないようだな」
にべにも無く断言する少年。
真水―――その液体の存在は有麗夜にとって文字通り天敵といえた。
「何でそんなの用意してるのよ!?っていうかぶっ掛ける気満々じゃない!!」
「別にそんな事はないぞ。普通に来て普通に起こすなら、こんな手段は僕も取らんな」
淡々と右手にやや大型の拳銃タイプ水鉄砲を構え軽く振る少年。
容量にはまだ余裕があるのか、聞こえてくる音は有麗夜にとって絶望的な音色であった。
「で、何しにきたんだ?有麗夜。返答によってはとても残念な結果になるのだが?」
起き抜けとは思えない声で問いかける少年。
逆らっても何もならないと判断したのか、正直に有麗夜は答えた。
「ほら、もう私達の学校って冬休みに入ったじゃない?」
「そうだな。既に半ば過ぎてるか」
思い出したように声の調子を上げて答える少年に、有麗夜が同意する。
「そうそう!もう半分じゃない!これから大掃除に大晦日ってイベントもあるんだから寝てたら損よ、損!!」
自身に向けられている銃口から目を逸らし話を合わせる有麗夜。
熱が篭っているのか続く語気も荒かった。
「それなのに俊哉はクリスマス・イヴはふらりと居なくなるしクリスマスは捕まらないし!家に居るって分かったの一通り探した後だったのよ!」
座ったままジリ、と有麗夜が近寄る。
「もう残ってるイベントが
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録