俺に相応しい仕事はきっとある。
ただ、それが見つからないのは俺のせいじゃない。
俺の価値が分からない社会のせいなんだ。
俺は悪くない。
2ヶ月前、自分はいつもと変わらない日常にうんざりしてた。
変わらない時間に起きて、
変わらない食事を摂って、
変わらない通勤風景を見る。
ずっと続くと思っていたからこそ、変化を望んだ。
例えば空から女の子が降ってくるとか。
例えば異世界への門がいきなり目の前で開いて自分はその世界でヒーローになるとか。
例えば人生のやり直したい所まで戻って自分の人生を勝ち組にするとか。
例えばもっと身近に職場やご近所の美女美少女にモテてモテてモテまくってハーレムを作るとか。
自分が自分の人生を自分らしく輝けるような変化を望んだ。
だから断じて間違っている。
あんな、俺の輝きを潰すような変化は人生の間違いでしかない。
きっと神様って奴が俺の才能を妬んで手を打ったに違いないんだ。
俺の何処に問題があったのか。
―――『君には今の担当部署を外れて貰いたい』
今まで外回りだったが成績が伸びず、社内の資料室へ転向させられた。
通称『墓場』と呼ばれるそこは、用が済んだ企画書やら滅多に使わない行事物やらが安置されており、入ったらほぼ確実に一般の事務職にすら復帰出来ないと言われていた。
そこに部署移動するという事は最早会社から何も期待されていない、無能者という烙印を背負わされる事となる。
当然抗議した。
「自分は実直に仕事をこなし、今の部署にも遣り甲斐を感じています。誰よりも努力したつもりですし、その自負もあります」
足を棒にして、駆け摺り回って仕事を得てきた。
何度も売り込み先に頭を下げてきた。
全部会社の為にした事じゃないか。
その自分が、何故こんな目にあう。
―――『君の努力は買おう。その姿勢は他の者も見習うべきかも知れないな』
そうだろう。他の連中のように昼休みに群れて談笑するより、さっさと済ませて売り込みに行った方が効率的じゃないか。
―――『しかし、如何せん努力だけだ。結果が追い付いてない』
「…確かに結果は芳しくありません。でも巻き返します!」
自分の努力は他の連中とは違うんだ。
あんなダラダラ休んでたんじゃ業績なんて伸びない。
身を削って働く奴には、必ず結果は付いてくる。
自分はこの会社の誰よりも身を削って働いているんだ。
誰よりも結果が出る筈なのにまだ出ないのは、その結果が出るまで時間が掛かってるからに他ならない。
何故この上司はそんな簡単な事が分からないのか。
―――『…君が入社して、もう1年位かな?』
「はい。ですが、もうじき2年です」
―――『そうだったな。では、言い方を変えよう。君は今の部署に向いていない』
「!そんなっ!業績が伸びるのに時間が掛かっているだけです!今に結果を…」
―――『それだよ』
一体何なんだ。何でこんな事を言う。
何で、思い出させる。
―――『熱意が変わっていないのは素晴らしい。だが、結果が伴わなければ意味が無いと思わないか?』
……何を言っているんだ。大事なのは結果じゃない。努力したという経緯だ。努力そのものだ。
結果なんてすぐ出るもんじゃない。自分は特に人より結果が出にくいんだ。
なら、評価するなら努力そのものじゃないと正統な評価とは言えないじゃないか。
―――『君より後に入社した後輩達も、もう君より結果を出している』
…止めろ、言うな。
―――『もう一度言う。君に今の部署は向いていない。異動し給え』
自分は頑張ってるんだ。誰よりも頑張ってるんだ。
何で認めてくれないんだ。
―――『もし異動が不服なら、残念だが君には―――』
その、先を
「言うなあああああぁぁぁぁぁっ!!」
「あああぁぁぁぁぁ……」
自分の声で目を覚ますのは、これで何日目だろう。
空を掻く両手は、そこに居もしない男の首を絞めようとしていた。
荒い息遣いで知っている天井を見る。
はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…」
ここは、俺の部屋?
―――夢、か。
「クソ…何でまだあんな…」
時刻は、真夜中だろうか?カーテンを閉めているとはいえ随分と暗い。
最悪な寝覚めだ。
2ヶ月前、自分は確かに変わり映えの無い人生を歩んできた。
しかし何処でどう間違えたのか。
端的に言えば俺、細井 一成(ほそい いっせい)は職を失った。
理由は些細なものだった。
職場環境が合わない。同僚と話が合わない。相手先と時間が合わない。
色々な些細な事が重なって
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