大学の夏休みが終わりに近づいたので、ひと夏の思い出に、僕は彼女を誘って映画を観に行くことにした。
どんな映画が観たい?と尋ねると
「こわいものが良いな」
と言われた。彼女のホラー好きは昔からだ。出会ったころから変わっていない。
デート当日の、昼過ぎ。待ち合わせ場所の公園に行くと、彼女が待っていた。白いワンピースに黒髪ショートの髪型はよく似合う。
「お待たせ、弥生。待ったかな?」
僕が声をかけると、彼女は首を横に振り、
「今来たところ。だから大丈夫だよ」
と言ってくれた。
「でも…なにか忘れてない?」
はて?何を忘れたんだろう?わからずに彼女を見ていると、彼女は上目遣いで
「ちょっとだけ待った。だから、お待たせのちゅー、しよ?」
と聞いてきた。
彼女から求めているのだ。答えてやらなければ男が廃る。彼女の唇に自分の唇を近付け、キスをした。
「ん…ちゅ…」
唇と唇が触れ合い、舌と舌が絡み合う。唾液の甘い味が口のなかに広がった。やがて満足したらしく、彼女の方から唇を離した。
「ふふ、ありがと」
そうしてお互い見つめあって、抱きしめあう。
「弥生、そろそろ行こうか?」
「うん、早く映画見たいな」
僕らは手を繋いで歩きだした。映画館のあるショッピングモールまではお互い無言だったけど、言葉にしなくてもお互いの気持ちは伝わる。少しひんやりとして、でもあたたかい手の感触を楽しみながら歩いた。
数分歩くと、ショッピングモールについた。映画館の受付でチケットを買い、ついでに食べ物も買うことにした。
「弥生、何がたべたい?」
「フライドポテトがいいな」
フライドポテトがあったのでそれにしたようだ。コーラも忘れずに買った。
10分後に映画が始まった。弥生が観たいものにしたが、コメディタッチのゾンビ映画だった。
小一時間無駄に明るい音楽と共に踊り狂うゾンビを見ているのはさすがに飽きる。
弥生も飽きたようで、二人して映画が終わるとすぐに外に出た。
「…ねえ?」
ためらいがちに彼女が声をかけてきた。
「映画、つまらなかったでしょ。ごめんね、まさかあんな映画だとは思わなかったから」
確かにパンフレットを見る限りはパニック系の映画に見えた。ある意味詐欺なんじゃないか。かといってつまらないと言って弥生のがっかりした顔は見たくない。
「そんなことなかったよ。弥生と一緒に見る映画はどれもいいものだった。だって、愛しい人がそばにいてくれるからね。」
がっかりさせないようにと言葉を選んだつもりが、とんでもなく恥ずかしい事をいってしまった。
言ってしまった本人も恥ずかしいが、言われた方も恥ずかしいみたいで、弥生も顔を真っ赤にしていた。
「ほんとに…?」
「うん、もちろんさ。」
実際は結構ハズレなものが多いけど、隣に弥生がいるならいつだって最高の映画だ。
映画のうさ晴らしというわけではないけれど、僕たちはゲームセンターに行くことにした。ここはシューティングゲームがたくさんある場所で、弥生のお気に入りだ。
ゲームセンターに着き、いつものシューティングゲームの台に向かっていると、前から派手な服装をした男が5、6人やって来るのが見えた。髪を染めたのも何人かいる。すれ違う直前になって危ない雰囲気を感じた僕は、彼らとぶつかりそうな所を歩いていた弥生をとっさに抱き寄せたが、一瞬遅かった。
「きゃっ」
「うおっ」
不幸にも、弥生はアロハシャツを着た男性にぶつかってしまった。例に漏れず、相手の男性はこちらに難癖をつけてきた。
「おい、ねーちゃん。いて…ヒッ!」
その言葉は最後まで続かなかった。男性たちの方を見ると、表情がひきつっている。それはそうだろう。弥生に強い衝撃を与えれば、当然そうなる。
「すみませんでした!」
と言って彼らは逃げていった。後には僕と弥生が残された。正確には彼女の外れた左腕も。
「あらら…腕がとれちゃった」
このことからわかるように、弥生は普通の人間じゃない。彼女はすでに死んでいる。つまり今の彼女はアンデッド、もう少し馴染みのある表現に変えるとゾンビである。ゾンビと言っても、人間を襲って食べたりはしないようだ。僕は別の意味で襲われて食べられたけど。
さて、弥生の腕を取り付けなくてはいけない。
リュックのポケットを探ったが、ぽふぽふと乾いた音がした。皮膚を縫うための裁縫道具は家のようだ。
「なおせないの?」
と弥生が聞いてきた。彼女に痛覚はないみたいだけど、腕がないと変な感じがするようだ。それに見た目の問題もある。
「ごめん、裁縫道具、家においてきちゃってさ」
「んー。とりあえず肩をはめて。家に帰ってゆっくり治そ?」
とりあえず肩をはめ、僕の家に連れ
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