一話『復活』

「ふぅ……しっかし今日も誰も来ないな」

数あるビルの中でも一層寂れたかのようなものの一室、『広瀬探偵事務所』と書かれた看板の部屋に、雑誌を読みふけっている男がいた。

「飯の種の浮気調査もメッキリ減ったし……こりゃ本格的に転職を考えないとまずいか?」

そう言いながらも、すぐ真横の求人広告には目もくれずにインスタントのコーヒーを啜っている時点でこの男――『広瀬翔一』にそんな気など全くない、せいぜい金がつきそうになった時にバイトでもするか程度の心構えしかない

「ま、仕事がないだけこの街が平和ってことなんだろうけどさ……」

オンボロの部屋特有のカビっぽい空気を少しでも換気しようと翔一は部屋の窓を全開にして、晴天の青空を見上げる

「……今日も自分の足で仕事探すか」

しばらくボーッとしていたが、このまま待っていても仕事など来ないことなどとっくの昔から了承していた翔一は手製の名刺を持って家の鍵を探し始める

「広瀬! いるか!?」

だが、今日はどうやら例外だったらしい、仕事で知り合った顔なじみの刑事――『泉猛』が荒々しく扉を開けてきたのだ。

「――やっぱ素直に喜べないね、こういう仕事は」

警察の関わる事件など大抵ろくなものじゃない、経験則から今回も何かしらの厄介事に巻き込まれる事を予感した翔一は、一人嘆息をついた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「未確認生命体の怪事件……ね、一体いつからお巡りさんは不思議探検隊になったんですか?」

最寄りの警察署にて事件の詳細を聞かされた翔一は、そのあまりに突飛な内容にがっくりと肩を落とす。

なんでも、ここひと月前から植物、獣、軟体――とにかく様々な『異形』の姿を持つ者が街のあちこちで目撃されているという、しかもそれは全員女性の形をしているというのだから信憑性はますます低い

血なまぐさい事件でないことにホッとした反面、こんなくだらない事に呼び出された不満がありありと態度に出ていた。

「ボクらとしてもそう思うんだけどねぇ……一度も確認が取れてないとは言え、こうもひっきりなしに催促されちゃあ警察としては何らかの対応はしなきゃだから」

飄々とした様子で中年の警部――『猿渡剛二』が答える、パッとしない外見とは裏腹に凄腕の警察官としての顔も持ち合わせており、彼が関わった事件で解決しなかったものはないと言われる程である、それがどうして都心からやや離れた場所にいるのかは勿論、翔一のあずかり知る事ではない

「で、その面倒事を俺が代わりに、と……」

「しょーゆーこと、まぁ困った事があれば協力するし、ちゃんと拘束する時間分の誠意は見せるからさ、小遣い稼ぎと思って付き合ってよ」

「……まぁ、仕事もありませんし、何より物騒じゃなさそうなので喜んで」

「ははは、これまで散々面倒かけたからね、たまにはこういうのもいいだろう」

朗らかに笑う剛二に翔一は会釈をし、その場を立ち去っていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お昼どうします? 蕎麦屋とか」

その後、一応は警察のお手伝いと言う体でいるため同行している猛と共に昼の雑踏を歩いていた。
あたりの飲食店からはより一層いい匂いが漂ってきて道行く人々の食欲を刺激する

「すまないが昨日食べてしまってな……他の物がいい」

そんな何気ない会話を交わしながら二人は日の照った道を歩く、今日も事件など微塵も感じさせる事はなく、街は何時も通りに平和であると

――そう、思っていた。

最初に分かったのは、突如とした震動

「な、なんっ!?」

「じ、地震かっ? みんな伏せろ!」

猛の言葉に反応して翔一たちは頭を抱えてその場で蹲る、建物の倒壊を気にして揺れに意識を集中させていると、翔一の中にある違和感が芽生えた。

(この揺れ……地面から伝わってこない? 何か変だぞ……!!)

違和感の正体に気づいたとき、『ソレ』は現れた。

一際大きな揺れの後に収束するかのように現れたものは、赤黒い色をしていた。
禍々しく、気味の悪いデザインのものは、表すなら閉じた瞼の形をした『門』と言うべきものだった。

「……何だありゃ?」

思わず、誰かがそう口にする、だが放けていられるのもそこまでだった。

瞳が開き、その奥から何かが滑り落ちてくる、青い液体状でもあるその物体は、ともすれば門の涙のようにアスファルトの上にべしゃりと下り立った。

「……えへへへへ♪」

そして次の瞬間、形を歪ませ、人間の女性を型どったそれは獲物を前にした悪魔のように、無邪気に笑った。

「うわあああああ!?」

「ば、ば、ば、化物だああ!!」

今身近に迫る恐怖を前にして、とうとう人々のパニックの箍は外れ、我先にとあちこちへ逃げ出す。
しかし統率など取れていない状態ではあっという間に彼女たちに追いつかれて
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