花に水を与える。
水をなみなみと注いだバケツを振り回すようにして水をぶちまける。透明な液体が土に当たってはじけ、しみこんでいく。
本来、このような水の与え方はすべきではない。植物の根に不要なダメージを与えるからだ。
しかし、彼女が育てている花は皆丈夫で果てしなく手荒に扱っても全く問題ない。
それどころか多少ストレスを与えることでより強く美しく育つのだ。
「ふん?」
水でびしゃびしゃになった植物に浮かんだ白い斑点に気づく。70年ほど育ててきた経験からこのようなものは病気以外にないとわかった。
「珍しいねぇ……。治すのは面倒なのだけれど、手を打たなければ全滅してしまう……。さてさて。」
どうしたものか。特効薬は材料の性質上市販しておらず、自作するしかない。方法は確立されているうえに何度か作ったことはある。しかし……。
「若い男の精液……。それもしばらく禁欲生活をさせた男のか……。しまったねぇ、バイトの子はこの間やめちゃったし、どうしようかねぇ。」
彼女のもとでアルバイトをしていた少年がいたが、一身上の都合で退職してしまったのだ。何か問題のあることをしてしまっただろうかと悩んだが、街で見かけて得心した。
白蛇と手をつないで歩いている姿を見たからだ。大方、少年が気を遣って退職したのだろう。彼との間には何もないのだが、ラミアの嫉妬深さは尋常ではない。
自らの伴侶のためにほかの仕事を探す。なかなかできないことだ。ナイスガイである。
そこまで思い返して彼女は思い浮かんだ。
一人いるじゃないか。もう一つの仕事先に。
「さて、テストは全員もらったな。」
僕の周りで友達たちが数字に一喜一憂している。何のことはない、点数などただの数字であり、極論すればインクの染みなのだ。何も気にすることはない。
誰にも見られないように鞄の中に答案用紙をしまおうとすると、隣からキャンキャンとした高い声が聞こえてきた。パイロゥのツムギだ。
「42点んん!?ヤバくない?バカじゃんか!」
「語呂合わせならヤバいかもしれない。死につながるから。でもこれはただのインクの染みだから大丈夫。赤いのはインクだけ。多分君の彼氏もそう言う。そうだよね。」
後ろからふざけたトーンの声がした。ツムギの彼氏、ウミだ。
「つまり俺は彼氏じゃなかった……!?ナツキ、彼女いない同志で海に行こう。海のヒト達はおおらかで優しいしな!こんな紙切れじゃ人生は左右できないって教えてくれるさ!」
「ほらね。去年まで彼女いない同盟だった男たちの友情は固い。……ん?」
ツムギがウミの答案を奪い、僕に渡してくる。84点。
「友情はもろいな、ウミ。ツムギにエナジードレインされて死ね。」
「キャハハハハ!ありがと、ヒビキ!ウミ、今日は天国見せてあげる!」
ツムギはウミの顔に手を当てるとエナジードレインを行う。ウミはエナジーを吸い取られながら嬌声を上げる。その隙に僕はツムギの答案を奪い、点数を確認した。
98点。失点は誤字によるものだった。なぜ……。
「さ、静かにしたまえ。エナジードレインはするなとは言わないがバレないようにやるように。これから授業を始めるが最低点数だった42点は放課後、
すべての用事が終わった後に理科準備室に来るように。」
おやおや。
教室の掃除中、ヘルハウンドのホムラが声をかけてきた。ウルフ族は狂暴だと思っていたが、話してみると意外と気さくで親しみやすいので僕は結構好きだ。
「ナツキ、何かやったのか?ユーシェン先生に呼ばれるなんて。」
「ん……、記憶にないかな。逆ナンかも。いやそれはない。」
「42点だもんなぁ。あたしならイヤだな。」
このアマぁ……!
「あたしたちの感覚だと頭の悪い男はイヤだ。友達ならともかく、彼氏はなー。」
「なーんでー?養ってくんないから?」
「あはは、違う違う。あたしたちにとって人間の男なんて弱っちいんだ、頭良くないと生きてけないくらい。しかもバカな男に振り回されて群れが死んじゃう話はたくさんある。」
「ふうん。あ、掃き掃除終わったよ。」
「よし、ごみ捨てに行ってくれ、机は片付けとく。すぐ終わるだろうし、捨てたらユーシェン先生の所に行っていいぞ。」
「はーい、ママありがとー!」
「うん、お前があたしの子供だったら42点なんて情けない点数はとらせないな。」
そんなに悪いか……?赤点じゃないし……。先生に呼ばれたけど。
廊下に出ると隅に小柄な生徒が寝そべって勉強していた。雑巾で床掃除をしたばかりなので制服が濡れてしまっている。
名前は知らないがホムラとキスしているのを見たことがある。多分彼氏くんだろう。彼は頭が良いのだろうか?
「もう一人になったよ。ホムラさん待ちでしょ?」
声をかけるとわたわたとした様子で本を片付けた。背表紙はなんだか読めない文字で書いており、
ちらりと見えた
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