暗闇の中を、軽装の一団が進む。
革鎧にパトリア教国を現す紋章が施され、手にはそれぞれ異なる武器を持っている。
この一帯は長らく未開だった為、道は無い。足は自然と、他よりは通りやすい獣道に向いていた。
「いる……のかな。本当に」
一人が口を開いた。声が少し震えている。
「いるに決まってるだろ。もう6人やられてるんだから」
「じゃ、いるとしたら、どんな形してるのかな」
「あ?」
「だって、南の魔物どもが悪魔とか怪物とか言って恐れてるって」
「ピート、お前なぁ……」
呆れたような声に構わず、ピートと呼ばれた男は喋り続ける。
「噂だと、奴らがいるあの大陸は海底火山が噴火してできた奴で、海の下のずーっと地底に住んでいた奴らが噴火と一緒にここまで上がってきたんだって」
「おい」
「地底はでっかい空洞になってて、あの怪物も元々はそこに住んでて、それをあいつらが飼い慣らして…」
「ピート、黙れ。敵に気づかれたらどうする」
囁きが大きくなってきた所で隊長が止めた。
「それに、全部噂だ。最初に国に来た使節はただの人間だったぞ。確かに変な術を使うが、お前が考えるような化け物じゃない」
ピートのすぐ前にいる男も同意する。
「それに奴ら、魔法は使えないって自分で言ったそうじゃねえか。昼にやられた奴らはともかく、こっちには魔導師サマがいる。なっ」
「………」
最後尾にいたローブを纏った者は、何も答えない。
「飼ってるペットが強いだけさ。人間は人間だよ」
「でも、7年前は…」
「そこまでだピート。教団の司教とかに聞かれたら、牢屋行きだぞ」
「ああ。俺らのすぐ近くにいるかもな」
「うっ……」
謎の敵よりも、現実にいる怖い人の名を出されては、パットも黙るしかなかった。
「…にしても隊長、このまま壁まで行くつもりですか?」
「いや、山1つ挟んだ所までだ。我々の任務はあくまで偵察と安全確保だからな」
「で、今ではたった1人とかくれんぼですか」
「奴が壁に行ってこの事を報告したら、作戦がバレる。全部水の泡だ」
「見つけたら英雄、逃がしたら最悪鉱山行きか…」
「…っ」
7年前に奴らの国に行って帰ってきた者たちの末路を考え、寒気を感じるピート。
すると、前の者にぶつかった。
「あ、ごめんレイド…」
だがレイドは答えない。自分の方を向いたまま立ち止まっている。
見ると、レイドだけではない。他の者たちもこっちを向いていた。
「な、何…」
と言いながら振り返ってみる。そこには、後ろにいた筈の魔導師のケイスがいない。
あの目立つローブは、20メートルほど先に落ちていた。
「ぁ…」
「広がれ、全周警戒だ。ピート、見に行け」
隊長の指示で喉まで出かけた悲鳴を飲み込み、ピートはケイスの所へと走る。
ケイスはピクリとも動かない。真夜中なうえに月の光すら頭上にある枝葉で遮られている今、見ただけでは生きているかどうかも分からない。
「ケイス、どうし…」
「ぐわっ…!」
ローブに手をかけようとした瞬間、今度は今さっき離れた隊の方から声がする。
顔を向けると、
「ファビアンを助けろ、早く!」
「野ろ、おぐぅ…!」
「レイド!」
黒い人影がレイドの後ろに回って腕を捻り上げていた。
道脇の草むらからはファビアンの足だけが覗いている。
「こ、この!」
「やめろ!」
隊長の制止より一瞬早く、セレーが持っていたボウガンを放ったが、その矢はレイドの胸に突き刺さった。
「がはっ!」
「あっ…」
「貴様っ…!」
人影は矢を掴んで抜こうとするレイドを盾にしたまま、手に持った杖を突き出す。
ぷしゅっ、ぷしゅっ、と空気が抜けるような音と共に、隊長とセレーが悲鳴も上げずに崩れ落ちた。
力尽きて項垂れたレイドの身体をその場に捨てた人影が、顔をこっちに向ける。
「け、ケイス起きろ! 皆が…!」
すぐ傍で倒れたままのケイスを起こそうとするピートだったが、掴んだ場所が生暖かい事に気づいた。
「え…まさか……」
ぬるついた感触と錆びた匂い。そしてそれは頭巾から染み出していた。
(もう、ぼく一人……!?)
「ひィッ…!」
現実を認識した瞬間、彼は剣を捨てて走り出していた。
「あれ」から早く逃れたい。鉱山送りになってもいい。「あれ」から逃げられるなら…
そこまで考えた時、不意に右足から力が抜けてその場に転んだ。
「うぐっ…あ」
立ち上がろうとしても、力が入らない。脚には小さな穴が空き、血が流れ出している。
それでも少しでもここから遠ざかろうと後ずさりするが、ふと正面に目を向けると、
黒い人影はレイドを捨てた所から一歩も動かず、こちらに向けて杖を構えていた。
(追いかける必要すらないんだ…)
今なら分かる気がする。あんな噂が立ったのも、
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