「えー、お集りの皆さん、初めまして。北方魔王軍第7支部の司令官をしております。アネット・エルフィンストーンと申します。」
アネットは教会の兵士達が集まった講堂の前で演説を始めた。
兵士達を威圧しないためにアネットの周りに数人の兵士が警護として居るだけだ。
ざわざわと兵士達は騒いでいる。
「まず、あなた方の司令官であるアベル=クレティアン……。彼は……言い辛い事ですが、あなた方を見捨てて逃亡しました。」
ざわめきがいっそう大きくなる。
「先ほど、部下が馬舎の方に確認を取ったので、まず間違いないでしょう。彼は馬に乗って……どこかへ逃げたようです。」
「そんな……」
「くそっ!あいつ……自分だけ助かろうと……!」
「我々はどうしたら……!」
「い、嫌だ!死にたくない!」
「(やっぱりね。クレティアンの評判は最悪……。)」
諜報部の調査では、彼は教会の中に独自の勢力を持っており、ほぼ独裁のような状態らしかった。
情報も、自分たちに都合の良い物だけを伝達するのみ。
おそらく魔王軍からの和平の条件も聞いては居ないだろう。
「お静かに願います!」
アネットが強い口調で言うと、兵士達は黙り込む。
「我々は、以前からここの司令官に和平のための条件を提示していました。
おそらく、クレティアン氏からはほとんど何も聞かされていないと思いますので、
それを含めた説明を行いたいと思います!」
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「どうなんだ!?大丈夫なのか!?」
外には馬車が何台か止めてあり、オリビアはその中の医療用の設備を持った馬車にロアを運び込んだ。
「……うーん。これは、どうしようもないわね。」
「何だと!?頼む!どうにかしてくれ!私のせいで、コイツは……!」
医療班のスライムの方をガクガクと揺さぶると、からだがぷるんぷるんと揺れた。
「ちょぉ、っとぉ、待ってぇ!そぅじゃ、なぃぃぃ!」
「じゃあどういう事だ!説明しろ!説明しろぉ!」
「ぉぉちついてぇぇ!おねがいいぃいぃい!」
必死にオリビアを止めると、スライムは息を切らせながら言った。
「どうしようもないって言うのは、治療する様な傷が無いってことよ。」
「そ、そんな訳あるか!教会の兵士にボコボコにされたんだぞ!」
「確かに血の跡とかはあるけど……、内出血とか、傷はほとんど無いわ。」
「じゃあ、このっ……死人のような顔色は何なんだ!この髪の色は!?」
「死人って……顔色が悪いのは、貧血ね。血を流しすぎたって訳じゃなさそうなんだけど……。髪については……魔力を失ったときの症状と似てるわ。」
「魔力……!?そんな馬鹿な!コイツに魔力なんて……」
「ええ。魔力の反応はないんだけど……変なのよね。」
「じゃあ、大丈夫なんだな……?」
「ええ。命に別状は無いはずだけど……。」
「そうか……。」
スライムがそう言うと、オリビアはその場にへたり込んだ。
「よかった……。」
「隊長ー!」
馬車に向かって、セラが走って来るのが見えた。
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「まず、我々は基本的に争いを望んではおりません。我々が戦闘を行うのは、中立、親魔物派の人間や、魔物達に危害が加わりそうな場合のみ、交戦を行います。」
兵士がざわざわと騒ぎだす。
「しかし、我々は戦闘があっても相手の命を奪う事はありません。負傷者が居た場合は、相手が誰であろうと治療し、回復させます。」
「ちょ、ちょっと待て!」
ざわめく兵士の中から声が上がる。
「俺の友人は、魔王軍との戦闘に向かったきり帰って来ないんだぞ!あいつはどうなったって言うんだ!」
「そのご友人のお名前は?」
「な、何?」
兵士は何を言われているのか分からない、と言った様子だ。
「そのご友人のお名前を教えていただけます?」
「ビル……ビル・プロクターだ……。」
「少々お待ちを。」
アネットは脇に置いてあった鞄から何か本の様な物を取り出し、ぱらぱらとページをめくった。
「……あった。ビル・プロクター。現在は我々の砦の南東に位置する、ローベンと言う町で暮らしています。」
「な……!」
「嘘だと思うなら、お話ししてみます?」
今度は鞄から水晶玉を取り出すと、何かの呪文のような物をぶつぶつと呟いた。
『……ザ…ザザ……ザーーー………』
水晶玉からノイズが聞こえてきた。
『ザー……はい、プロクターです。』
「もしもし?アネットです。」
『あ、司令官さん。どうしました?』
「今、あなたのご友人が居ますので代わりますね。」
『え?』
「ビル!ビルなのか!?」
『その声は……ロイドか?』
ロイドと呼ばれた兵士は、水晶玉に駆け寄ると叫んだ。
「お前、無事なのか!?」
『無事って言うか……魔王軍で面倒見てもらってる。
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