「はぁ・・・」
溜め息を吐くポーラ。彼女の心を
代弁するかのように空の色も暗い。
「もう昼だけど、食べないのか?」
ふと横から声が掛けられる。振り向けば
心配そうな表情でベルモットが覗き込んでいる。
「あんなもん見せられたら食事どころじゃないよ・・・」
「まぁ、それは分かる。だけど折角の結婚式なのに
辛気臭い顔をしてどうする?」
ベルモットは呆れた様に首を振った。
「ん、誰か結婚するの?」
「何言ってるの。貴女が結婚するんでしょう?
聞いたわ。勇者に求婚されたって」
反対側からキルシュが声を掛けて来た。
「・・・・・・はぁ!?」
寝耳に水の話だ。素っ頓狂な声が思わず飛び出る。
「いやいやいや、あたしゃ求婚なんてされて――」
「違うの? ジャンって人が嫁に貰って行くとか会議で
言ってたから、てっきり結婚するのかと・・・」
首を傾げてベルモットに目を合わせるキルシュ。
肯定するようにベルモットも答えた。
「ああ。向こうで指揮官を集めて話し合ってる。
お前が居れば停戦まで持ち込んでみせるとか、
上手く行けば私にも婿が紹介できるとか色々
説明してたぞ」
恍惚とした表情で語るベルモット。積年の願いが
叶う期待に酔いしれているようであった。
「とりあえず、話を聞きに行った方が良さそうだな」
手早く朝食を掻き込んで立つポーラ。
心なしか、頬の色が赤らんでいるのであった。
時は遡り、場所も移る。現状で最高の指揮権を持つ
ディートリンデと、事の元凶たるジャンが天幕の
奥で向かい合いつつ座っていた。
「その堅物さ、昔と変わらねぇな〜。もうちょい
上手く立ち回らないと敵が増えるだけだろ?」
「じゃかぁしい。こちとら曲がった事は嫌いなんだ」
水差しに直接口を付けて口を潤すジャン。
傍らに積まれた甲殻虫のフライを流し込みつつ
慣れた手つきで書類の写しを書き上げていた。
「それに、上の連中は実力主義だからな。黙らせるには
実績で納得させる方が早い。丁度良く手頃なのが
罠に掛かったおかげで内部から干渉できそうだしな」
彼は不敵な笑いを浮かべつつ空腹を癒していた。
「何をしでかすつもりだい?」
「決まっている。悪だくみさ」
ジャンはバキバキと指を鳴らしつつ伸びをした。
「俺の計画は全部で三つ。此処の戦力を別の戦線に
移す事、人間の国で俺と共に裏工作をする事、
幹部格の魔物に教育を普及させる事。ポーラさえ
手に入れば全部同時にやれるだろうな」
ディートリンデは書類に目を通しつつ訊ねた。
「そんな事できるのか?」
「可能だ。半ば脅迫染みたやり方になるのは
不本意だが、軍縮と経済発展の利益で国を
丸ごと買い取れる。婿不足も一発で解消だ」
ディートリンデは楽しげに笑う彼を見て、
かつての学院生活を思い出していた。
「損はさせねぇ。また悪だくみに一枚噛むなら
担保として俺自身をくれてやる。どうだ?」
「よし、乗った。詳しく話せ」
悪童のような笑みと共に彼女は身を乗り出した。
「まずは裏工作からだな。諜報や穏健派への助力、
並びに異なる派閥の諜報員との折衝が中心となる。
可能ならポーラ女史を同行者として選抜したいが、
拒否された場合は銃士の中から協力を願いたい」
笑みが消え去り、真顔になってジャンは語り始めた。
「始めに穏健派の財源を増やす。ホルスタウロスミルク
増産に関しては現状の五割増しで利益が見込める。
その事業の看板娘としてポーラが欲しい」
いきなりのビッグマウス。されど至って真面目な
彼の表情から、勝算が有る事は見て取れた。
「そんな事ができるのか。一体どうやって?」
「単純だが乳房をでかくする。品種改良に加え、
人間側の性癖操作が成功した研究例がある。
この資料に目を通してくれ」
ジャンがイラスト付きの紙束を渡した。
描かれているのは、立っているにも拘らず
腰が見えなくなる程に肥大化した双乳を
抱えたホルスタウロスだ。
「魔物の外見は夫の好みに変化する。これを利用して
超乳性癖を植え付けた人間を集め、その子供の中で
特に優秀な奴を品種改良した結果がこれだ。母乳の
量は既存の平均より2・3倍も多く出たぞ」
頁をめくるとグラフやら年度別の資料が
ずらりと並んでいた。
「残念ながら人間側の手の大きさは変えられなかった。
なので搾乳効率は既存のままだが、この量だからな。
グレムリンとの伝手が確保できれば搾乳機の
実験をやってみたい所だ」
余りにも大きすぎる為、乳房では無く乳首を握るのが
精一杯。搾乳姿勢も正面から出ないと手が届かない。
つまり後背位で
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