「おい看守、ちょっといいか?」
一人の男が看守に向かって声をかけた。
「何だ?」
看守は気だるそうに答えると、男の方を向いた。
「ここの刑務所には変態しかいねぇのか? それともこれが普通なのか?」
「何が言いたい」
喧嘩腰になって喋る男に看守は不快を露わにした。
「何で刑務所なのに何にも無いんだよ!!」
男は周りを指さして怒鳴った。
あたり一面に広がる広大な牧草地帯。牧場でも作ればさぞ良い家畜が育つであろう。
現に周囲をうろつくホルスタウロスの胸はたわわに実っている。
しかし、この場所は政府公認の刑務所なのだ。なのに周りには本当に何も無い。
「報告で刑務所が完成したから来いって聞いて視察に来たのに、
なんで当たり一面草原なんだ!?」
「大丈夫だ問題ない」
看守はタバコを吸いながら返した。
「どう考えても問題が有り過ぎだろうが!!」
「大丈夫だって言ってんでしょ。ほら、あそこに見張りがわんさかいるんだし」
看守は南の方角へ指を向けた。そこにはワーシープが群れで眠っていた。
「アホ! あいつらに囚人の監視ができるか!? できねぇだろ!」
「あ〜あ、現場を知らない若造ってのはこれだから困る」
さも面倒臭そうに看守はぼやいた。
「いいか? これは魔物式の収監方法であって、俺達人間とはやり方が違うんだ。
そんなに心配なら今から仕掛けを見せてやるからちったぁ黙ってろ」
嫌そうに看守は立ち上がってワーシープに近づいた。
「お〜い嬢ちゃん、ちぃ〜っとばかしどいてくれ」
看守が声をかけると、目を閉じたまま彼女達はもぞもぞと
体をどけた。すると彼女達の下に囚人達が顔を出した。
「見てみろ。こんなにぐっすり眠りこけた囚人が逃げ出せると思うか?」
「目覚めたら一発でアウトだろ」
柵も堀も無いこの場所で一体どうやって逃走を防ぐのかが分からない。
見晴らしはいいからすぐに見つかると言っても、不安は拭いきれない。
「心配しないで大丈夫だよ。こっちにはプロがいるからな」
「・・・は?」
看守は首から下げていた笛を吹いた。
「あいつらがきっちり締め上げてるから逃げる心配なんざ無いんだよ」
笛の音によって平原の向こうから何かがやって来る。あれは・・・
「ナイトメア・・・だよな?」
半人半馬のおっとりした女性の風貌を見て男は思った。
「昼間は羊の嬢ちゃんが、夜は子馬の嬢ちゃんが交代で搾り取るんだよ。
丸一日夢でも現実でも搾り取られ続けて正気を保てる奴なんていやしねぇっての」
看守は笑いながら言った。寝ても覚めても搾られ続けるとは・・・
はっきり言って拷問である。
「万が一逃げ出したら?」
「あれの餌だ」
ナイトメアに続いて今度はワーラビットがやって来た。
「しかもワーウルフがこの辺を狩場にしてるから治安も良好。守りは万全なんだよ」
「飯とか風呂はどうすんだよ。衛生面で大問題だろ」
この辺りには雨風をしのげる場所はもちろん、炊事場も無いのだ。
「な〜にを寝ぼけたことを言ってやがる。糞と小便は肥料になるし、
風呂はぬれおなご達が体を清める。
精霊達は飯と寝床を用意してくれるしな。気楽なもんだよ」
看守は群生したアルラウネ達に視線を向けた。
よく見ると彼女達の中にノームが混じって眠っている。
「ユニコーンも居るから腹を壊したって問題ない。
歯磨きもマンドラゴラの根っこでやればいいしな」
「・・・給料は?」
男は突っ込みに疲れた様子で言った。
「もちろんあいつらには囚人どもの精液と結婚の自由を保証してやってんのよ。
そして俺にはハーレムを作っていちゃつく権利がもらえるわけだ」
ドヤ顔で看守はタバコの灰を落とした。
「しかもバイコーンもいるから喧嘩も起きないと来たもんだ。これで安心したか?」
「もう突っ込む気にならねぇよ・・・マジで訳分からん。これが魔物式とか言われても信じられん」
男は頭を抱えた。
「よ〜し、そんなに心配なら実際に試してみようじゃねえか」
看守は短く笛を連続して吹いた。
それに呼応して周りの魔物達がピクリと動いた。
「それじゃあ今から魔物達があんたを追っかけるから、逃げ切ってみせてくれ」
「・・・はぁ!?」
良い笑顔で親指を立てる看守。
「もちろん捕まったらそいつと結婚だから。頑張って逃げてくれや」
立てた親指を下に向けて再び笛を吹く看守。
それを合図にして魔物が一斉に駆け寄ってきた。
「ふざけるなああぁぁ!!」
早速ダッシュで逃げる男。しかし、そこらじゅうに張り巡らされた蔓が行く手を阻む。
「こっちにいらっしゃ〜い。甘い蜜を御馳走するわよ?」
「悪いがダイエット中だ!」
拳で蔓を叩き落としつつ、まずは第一関門突破。
「お兄さん
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