光剣

そこには神話の軍勢の姿があった。

炎で形作られた巨大な体躯と捩じれた角を持つ醜悪な悪魔。嵐を纏う裁きの雷槌を携えた巨人。氷の槍を持つ水の戦乙女。土塊を捏ねて作られた魑魅魍魎――書物の中で語られる終末の戦争のような光景が、赤い月に照らされていた。
だが、明確に神話と異なる点もある。その全てが、同じ方向を向いている事だ。
これらは、ぶつかり合う神々と魔物の軍ではなく、全て合わせて一つの軍勢なのだ。
だが全ての魔物が魔物娘となった今、そしてまさに魔王を討たんとする遠征軍と魔王軍がぶつかるこの戦場に、そのような軍勢など存在しようはずもない。
それら全ては、勇者と呼ばれる一人の少年の魔法で生み出されたものだった。

「………………」

優れた術者は例えそれが単純な火や水、土塊を撃ち出すような魔法であったとしても、意のままの姿を取らせより自在に操る事が出来る。
例えばそれは触れた者を昂らせる情欲の火を、ハートの形で撃ち出す事。
例えばそれは嵐のように降り注ぐ雷を、その実精密に操る事。
例えばそれは――全てを焼き尽くす劫火に威容を誇る悪魔の姿を取らせ、自在に操る事。

少年はそれを学んでしまっていた。
実際に振るわれるその光景を、両の瞳に映しただけで。

それを独立した兵隊のように操るのとただの攻撃として放つのでは、必要となる魔力も天と地程の差がある。さらに言えば、そのような魔力のみで形作られた存在はこの魔界に存在するだけで魔物の魔力の浸食を受けてしまう。
少年はその浸食以上の速度と量を、顔色一つ変えずに供給し続ける事でこの軍勢を維持しているのだ。
人間離れ、などという言葉ではとても生温い。異常という他ない魔力量。
それは――そう、この少年がその魔法の存在を知れば、神々のように独立した異界すら生み出せるのではないかという程の。

「………………」

既に彼は教団の意思の元にはなく、己が生み出した軍勢の中心で微かに宙に浮き、漂うように戦場を彷徨っていた。
時折、進行方向を遮る魔王軍と衝突しながらも、少し交戦すると興味を無くしたように進行方向を変えてしまう。
それは感情の見えないその瞳に誰かを探している、迷子のようでもあった。

幸いな事にその予想進路は予測を立てやすい為、その先に魔王軍の腕利き達を用意する事は容易なのだが……それだけで、本来は教団の本体を迎え撃つ為に控えていた人員を割かざるを得ない。本来の陣形を、崩さざるを得ない。
そうして残った教団の兵士もそれを理解しているからこそ、自然と少年の軍勢を追うような動きを取っていた。

「………………?」

そんな、虚空を見つめ動く事のなかった少年の瞼が、ぴくりと動いた。

























いた。




























いたのだ、彼が。






















彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が。彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が彼が
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