月が照らす草原を、夜風がざあざあと音を立てて撫でてゆきます。
そんな開けた場所で対峙しているのは、既に魔法幼女へと変身した私を先頭としたキュレプップの魔法部隊と、マオルヴルフの皆さまです。
「貴方達の計画は、全てバレています!おとなしく投降して頂ければ、私達も貴方達の事を悪いようにはしませんっ」
ハーメル様の情報によれば、彼らはハーメル様の力で警備を手薄にした一点(これがそもそも嘘で、警備が薄くなっている場所など存在しないのですが)から、闇に紛れて一気にキュレポップ市内に侵入。キュレポップの幼女達を人質に、フラヴァリエそのものに対して多額の身代金を要求するという手筈となっていたそうです。
魔物国家を相手取ろうとしている以上、多少の装備はしているようですが……そもそもが強襲目的であり、正面から魔物とぶつかって勝てるような装備をしているようには見えません。
相手の組織の成り立ちを知っているとなれば、猶更です。恐らくは、まともに訓練を受けている人など殆どいないでしょう。
「……魔物に飼われるくらいなら、まだあの屑共に飼われる事を選ぶさ……!」
「ああ、そうだそうだ――!」
「今回のゴトが成功すれば、俺達は自由になれる筈なんだ……!」
ですが……流石は、ミリア様のお兄様が優先的に潰さねばならないと危惧している巨大犯罪組織といった所でしょうか。キュレポップの街一つを押さえる気で送り込まれたその人数はかなりのもの。
ここまで人数が多くなっては……そして、彼らがどのような経緯で組織に縛られているかを考えれば。大人しく投降して頂くのは、やはり難しい話だと言わざるを得ないでしょう。
私は背後に控える仲間達に、指示を送ります。
「……仕方がありません。キュレポップ魔法部隊、全員、構えっ――!」
「待て」
そんな私の号令は、敵の戦闘に立つ男の声によって遮られました。
「こちらには、既に人質がいる」
「……っ!?」
彼らの中では比較的地位が高いらしい男の言葉に、キュレポップの人員を中心とした私たちの部隊にざわめきが走ります。
私以外のここにいる人員は、ハーメル様がスパイとして彼らに潜り込んでいた事を知りません。そんな彼女達に、私とウィルは声を張り上げます。
「皆さん、落ち着いて下さいっ」
『そーそー。証拠が無いし、本当かどうかも分かんないんだしさー?』
「……証拠か。今、見せてやろう」
私とウィルの反論に、男は映像投影用の魔道具である水晶を取り出しました。
一体、どんな映像が映し出されるのかと。双方の集団が、事の成り行きに神経を極限まで尖らせていました。
その時です。
「――ふはっ、ふはははははっ……!!」
あまりにも。
あまりにも聞き覚えのある、高らかな哄笑が周囲に響き渡りました。
「ふははっ、どうしたことだ。こんな街外れから、愛しの幼女達の気配がするではないか……!?」
その場にいる全員の視線が、声の聞こえてきた方向へと集まります。
目元を隠す白いマスク。マントを靡かせ、社交界に向かう正装の貴族のようなその出で立ち。
周囲でも一際高い木の天辺。満月を背に魔法石が埋め込まれたステッキを振るい、役者がかった大仰な仕草を見せるその影は、見まごう事無く――
「怪人、ロリコーンっ……!?」
今度は双方から。何故怪人ロリコーンがここに居るのかと、新たなざわめきが起こりました。
そんな両陣営の視線を受けながら、軽く跳躍したロリコーンは風を纏い――ふわりと、音も無く私の目の前へと降り立ちます。
「っ、な、なら、人質は……!?」
突然の出来事からようやく我を取り戻した男が、慌てたように手にした水晶を操作します。
果たして――水晶から、虚空に映し出されたのは。
『やっほー♪みんな、そっちはどんな感じーっ!?』
死屍累々と横たわる男達を背後に無邪気な笑みを浮かべる……我らがキュレポップの長の姿でした。
―――――――――――――――――――
遡る事、数時間前。
「おや、もうそろそろ部隊がフラヴァリエに到着する頃でしょうか」
「……そうか」
我慢していた。
ずっと、我慢していた。
「ああ、万が一ですが、私達を裏切っている場合も動かない方が身の為ですよ?その場合でも貴方には人質としての価値があるのですから――……おや?」
ハーメル・ウェーバーならば。商会を率い、数々の交渉と商談の場に立っている彼ならば。どんな状況においてもそれを相手に見せる事無く欺き続けるなど、お手の物なのだろう。
だが、『彼』は違った。だから、本当に助かった。この役割に余裕のあるハーメルが、余裕の持てない自分の、素に近い印象をこの組織に対して演じてくれていて。
「……言っている意味がご理解頂けていない様ですが……?あまり我々に手荒
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