第二話

ルウの朝は早い。水汲みに掃除洗濯、薪割りに料理の下ごしらえと、朝にやらねばならない仕事は山ほどあるからだ。
共同生活を営むこの場所では何か一つが滞ると全員の迷惑になってしまうし、何よりも朝のうちにそれらが終わらなければ、日中に修行する為の時間を削らなければならなくなってしまう。
だから必然的に、ルウは毎朝日が昇る前に目を覚ますという生活を送っていた。

「んんっ……」

だが、今日は妙に身体が気怠い。風邪でも引いてしまったのだろうか……少年はそんな事を寝ぼけた頭で考えながら、隣にある柔らかな体に抱き着いた。
あったかくて、すべすべしていて、ふかふかで、いい匂いで――いつまでも、いつまでもこうしていたくなってしまう。
そんな夢見心地な少年の耳に、聞き覚えのある、どこかのんびりとしたような声が飛び込んできた。

「うふふ、ルウくん起きましたか〜?」
「…………え?」

そこでようやく、少年は大きな違和感に気が付いた。
自分が裸で布団の中にいるという事。
何時もならば一人で寝ているはずの布団の中に、自分以外の存在がいるという事。
それは自分と同じように一糸纏わぬ、師匠の一人だという事。

そして――すでに日は傾き、オレンジ色の夕日が部屋の中に差し込んできているという事。

「ん〜、もう少し寝顔を眺めてもいたかったですけど、寝起きのぼーっとしてるルウくんも可愛いですね〜♪」
「わぷっ!?」

むぎゅうっ、とその胸に顔を押し付けるような形で抱きしめられながら、少年は昨晩自分に起きた出来事を思い出す。
蘇ってくる昨晩の記憶。少年の顔はそれと比例するようにどんどんと赤くなっていく。
あわあわと現在の状況にパニックを起こしながらも――今日一日を寝過ごしてしまったという一点に思い至ったルウの顔から、さっと一斉に血の気が引いた。

「あっ、あのっ、メイ師匠!?今日の修行は、どうなって……!?」
「朝に様子を見に来たランが、慣れない事の後で疲れているだろうからって、今日はお休みにしてくれましたよ〜?」
「…………え?」

その言葉に、少年の動きが一度止まった。

「え、え……?ラン師匠は、この事を知ってるんですか……?」
「うふふ。勿論です〜、ルウくんの修行メニューは、三人でちゃーんと話し合って決めてるんですから〜」

えっへん、と胸を張る師匠を他所に、少年の脳裏には昨日の夕飯の席でどこか不自然な態度だった残り二人の師匠達の姿が甦る。
という事は、すでに昨晩の出来事はランにも、リンにも知られているという事で……

「と、いう事なので〜、いつもの修行は明日からにして、今日はずーっと私といちゃいちゃしましょうね〜、ルウくんっ♪」
「え、メイししょ……んむぅっ!?」

だが、それについて深く考える前に。唇を塞がれた少年の思考は、差し込まれたメイの舌によって溶かされてしまったのだった。





――――――――――――――――――――





「ん……」

次にルウが目を覚ました時には、完全に日が落ち、部屋は暗闇に包まれていた。
頭の下には、ふかふかとした柔らかな毛皮の感触。温かな体に抱きしめられている感覚。流石に二度目の目覚めではパニックを起こさなかった。
目の前には、幸せそうな顔で自分を抱きしめながら穏やかな寝息を立てているメイの姿がある。

今日一日の目覚めていた時間のほぼ全てをメイと交わりながら過ごした少年だが、空腹を覚えてはいない。交わりながら、メイが何時の間にやら枕元に置かれていた果実などを口移しで食べさせていたからである。
だが、流石に喉が渇いていた。一日中精液を絞られ、腰を振り続け。そうでなくても寝起きは喉が渇くものだ。律儀にメイの裸に顔を赤らめつつ、目を覚まさないようにそっとその腕の中を抜け出す。そうして、昨晩メイに脱がされたまま放置されていた衣服を身に纏い、台所へ向かった。

「ふぅ……」

汲み置きの水で喉の渇きを癒した少年は、そういえば、と今日一度も外の景色を見ていない事を思い出す。
毎日欠かさずにいた稽古を一日休んでしまうと、それだけでとても長く稽古をしていないような気がしてしまって……せめて稽古場の様子ぐらいは一度見てからまた寝ようと、その足は普段師匠達と稽古に励んでいる庭に面する廊下へと進んでいた。

そうして廊下の角を曲がり、庭が視界に入ったところで、少年の足がピタリと止まった。

「あ……」

廊下の縁に腰かけたランが、どこか物悲しそうな表情で盃を片手に夜空に浮かぶ満月を眺めている。
月下の虎というのは掛け軸の題材としてもよく使われるテーマの一つだが……芸術などには縁の無い少年にも、何となくその理由が分かった気がした。
それほどに、憂いを帯びた瞳で月を眺める彼女の姿は、絵になっていた。

「……ん、少年か」

それに気
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